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今年のシリコンバレー開発者向けイベントの主役はプライバシー

シリコンバレーの開発者向けイベント、Facebook F8が4/30 – 5/1、Google I/Oが5/7 – 9、そしてApple WWDCが6/3のキーノート・スピーチで始まった。いつものように新製品・サービスの発表もいろいろあったが、今年の主役は製品・サービスというよりも、プライバシーだ。そこで、今回は、この3社がプライバシーとセキュリティに関して、どのような発表を行ったか見てみたい。

まず最初に行われたFacebook F8でのZackerberg社長のキーノート・スピーチのタイトルは、The Future is Privateだ。これまでFacebookは、皆ができるだけ情報を共有すれば、それだけコミュニケーションもオープンになり、よりよい世界になる、という考え方だった。それに対し、今回は「未来はプライべート」と言っているので、まさに180度転換した感がある。

Zackerberg社長は、開口一番「今日は、プライバシーに焦点を当てたソーシャル・プラットフォームについて話す」と切り出した。世の中には、公共広場のようなパブリック・スペースと、家の中のリビングルームのようなプライベート・スペースがある。これまでの15年、Facebookはインターネットの発展により実現した、瞬時に世界とつながることを利用し、パブリック・スペースを構築してきた。しかし、世の中にパブリック・スペースとプライベート・スペースの両方があるように、デジタルの世界でもその両方が必要で、デジタル・リビングルームが必要になった。特に世界にインターネットが広まったいま、プライベート・スペースを作り、個人のプライバシーを守ることがとても重要だ、と述べている。

Facebookは、以前からプライバシーに関する問題をいろいろ指摘されていたが、あまり本気で対応してこなかった感がある。しかし、昨今の世の中からのFacebookに対する批判、そして米大統領選挙で人をある方向に誘導するなど、Facebookの意図していなかったSNSの使われ方により、Facebook自身もこのままでは問題があると感じ、本気で方向転換を目指し始めたようだ。Zackerberg社長も、Facebookがプライバシーに対して真剣に対応するということに疑念を抱いている人が少なくないが、本気でやる、と言い切っている。

このためには、会社の運営の仕方そのものから変えていくという。さらに、プライバシー保護を取り入れるため、政府や警察機構を含む幅広い外部の人たちにも支援してもらうとのことだ。最近の新聞報道では、政府による規制も必要とまで話している。Zackerberg社長のスピーチに続く個別製品の新機能などの説明でも、プライバシーというテーマが何度も繰り返されていた。

私は個人的にFacebookのようなSNSは、とても便利でいいものだと思っている。毎日のように投稿する人もいるが、そうでなくても、人と人を長く緩くつなげておくために、とてもいいツールだと思うからだ。人はいろいろなところで、様々な出会いをする。ビジネスマンだったら名刺も交換するだろうが、米国では勤務する会社が頻繁に変わったりするので、名刺の連絡先は、すぐに使えなくなる。日本でも、特に若い世代では次第にその傾向が出てきているようだ。

また、仮に名刺やEメールアドレスを交換したとしても、特に用事がなければ直接連絡をすることもなく、次第にお互いのことを忘れてしまう。何かの用事で久しぶりに連絡を取ったとしても、相手が自分のことを覚えていない可能性も高い。しかし、Facebookでつながっていると、たまに相手の状況がわかったり、写真で顔を思い出すこともできるので、久しぶりに連絡が来ても、対応がしやすい。

このため、私は日本の大学で学生に話をするとき、「人のつながり」の大切さを話すとともに、それを継続させるためのいいツールとして、Facebookでつながりを持つことを勧めている。最近の大学生は、世の中のFacebook批判などもあり、Facebookを使わない人が増えているようで、むしろメッセージング・アプリのLINEなどを使う場合が多いようだが、これは親しい人の間ではいいが、緩く長くつながるためには、あまり有効なもののようには思えない。

とはいえ、昨今問題になっているように、個人情報が知らないうちに使われてしまったり、間違って流出されたのでは、安心して使うことが出来ない。Facebookも、名前は特定しないまでも、個人情報を使った広告宣伝、さらに政治的な悪用、また、情報流出問題などがあり、これまでの、なんでも皆とシェアすることが最善、という考え方を大きく変換する必要にせまられ、今回の開発者向けイベントのテーマがプライベート/プライバシーとなった。遅きに失した感はあるが、歓迎すべきことだ。

ということで、Facebookが本気でプライバシー問題に取り組み、パブリック・スペースとプライベート・スペースをうまく使い分けできるようなものになり、多くの人が参加し、人と人との緩く長い付き合いに貢献できるようになればいいと、私は願っている。

Googleも、ユーザーデータがいつの間にか知らないところで使われてしまっている、といったプライバシーの問題でやり玉に挙がっている。そのため、「プライバシーとセキュリティは、われわれの行うことの根本にあるもの」と述べ、ユーザー第一(User First)を掲げ、ユーザーによるデータのコントロール、データの保管期限設定、プライバシー設定のしやすさなどについて、Pichai社長が語った。

しかし、Facebookほどプライバシー一辺倒の話ではなく、Googleが力を入れるAIについての話も多かった。「皆のためのAI(AI for everyone)」、ということで、AIがブラックボックスではなく、何をどう行っているかがわかるようにすることにも、力を入れるとのことだ。ユーザーがGoogleのAIに直接触れるGoogle Assistantも、さらに進化する。音声対応、マルチタスク、個人への対応を深めるパーソナライズなどが、いまよりまた一歩先に進む。

さて、スマート・アシスタントでAmazon、Googleに抜かれてしまったAppleはどうか。すでに3月末に新しいサービスに特化した発表イベントを行い、Apple TV+、Apple News+、Apple Payの進化と、新しいApple Cardなどの発表を行っている。プライバシーとセキュリティについては、AppleはFacebookやGoogleなどに比べ、以前から力を入れており、むしろそれを他社との差別化要因にしている。

特にFacebookとGoogleに対しては、彼らはユーザーから得た個人データをもとにビジネスを行っているが、Appleは製品やサービスそのものを売ってビジネスを行っており、ユーザーの個人データについては、プライバシーとセキュリティを最大限に尊重していると述べている。3月の新しいサービスの発表でも、Appleは個人データを端末でしか使わず、Appleのサーバーにも持ってこない、プライバシーとセキュリティには万全である点を強調することを、忘れなかった。

この6月のApple WWDCでの発表はどうか。発表全体としては、新製品や既存製品の新機能など、いつもある内容が多かったが、プライバシーとセキュリティについても、それをさらに強化する発表を行っている。その一つは、「Sign in by Apple」という新しいサービスだ。新たなアプリなどにサインインするとき、Facebookでサインインしますか、Googleでサインインしますか、それともEメールでサインインしますか、というような聞かれ方をしたことがある人は、多いのではないだろうか。そのとき、FacebookやGoogleでサインインすると、簡単に済んで便利だが、そのときにFacebookやGoogleに登録している個人情報が、すべてその新たにサインインしたアプリに取り込まれてしまう危険性がある。危険性があるというよりも、おそらく多くの場合は、実際にそれが行われている可能性が高い。これに対し、Appleは新たにAppleによるサインインを可能にし、個人情報がそのアプリ会社に渡らないようにする、というのだ。

もう一つは、ユーザーのロケーション情報に関するもので、確かにアプリによっては、ユーザーのいる場所がわからないとサービスを提供できないものもあり、ユーザーも仕方なくロケーションを提供することも少なくない。しかし、いまのアプリでは、一度そのアプリにロケーション情報を使っていい、と答えてしまうと、いつでもロケーション情報を入手し、使うことができるようになってしまう。今回のAppleの発表では、それを「そのとき一回だけ許可する」という選択肢を加えた。これによって、そのアプリが必要なときのみロケーション情報を提供し、それ以外のときは、ロケーション情報が転送されないようになる。

Apple自身は、これまでもプライバシーやセキュリティに厳しい体制を整えていたが、Appleのデバイス上で動くアプリについては、十分対応できているとはいえず、アプリが勝手に個人情報を使ってビジネスを行っていることが、昨今問題になりはじめていた。これに対し、Apple によるサインインや、このロケーション情報に関するものを含め、アプリがユーザーの知らないうちに個人情報を使ってしまわないよう、Appleが門番となり、ユーザーが自分のデータを不本意に使われることがないように、さらにプライバシーを厳しくしたことになる。

プライバシーとセキュリティはユーザーにとって大事なもので、これらを重視する動きはユーザーにとって歓迎すべきものだ。一方、FacebookやGoogleにとっては、ユーザー情報をもとにしたビジネス、特にターゲット広告が以前に比べてしずらくなるので、会社のビジネスモデルにも大きな影響がある。これらの会社にとって、プライバシーとセキュリティを強化しつつ、これまでのビジネスをどのように維持発展させていくか、これからが正念場だ。一方、Appleはプライバシーとセキュリティの強みを売り物に、FacebookやGoogleとは、この面で一線を画し、むしろそれを差別化要因として、攻めに転じている。しかし、AppleはiPhone市場が成熟化して売上が停滞しはじめ、Siriで先行していたスマート・アシスタント分野ではAmazonやGoogleに抜かれ、今回のWWDCでも目立った発表はなく、サービス・ビジネスへの転換もまだ途上だ。さらに、混迷を深める米中摩擦の影響を、今後一番大きく受けるのは、おそらくAppleだろう。プライバシーとセキュリティの強みを発揮し、次の段階にうまく進めるかどうか、Appleにとっても正念場だ。

  黒田 豊


(2019年6月)

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