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AIで仕事がなくなる心配は必要か?

AIによって仕事が奪われる、という報告は、数年前から出ており、新聞紙上で大きな話題になることも少なくない。一方、たしかにAIに奪われてなくなる仕事もあるが、新たにできる仕事もあるので心配ない、という意見もある。みなさんはどのように思っているだろうか?

私の意見は、どちらかというと後者に近い。これまでも、科学技術の発展により、人々の仕事は大きく変わってきた。古くは産業革命によって、それまでできなかった多くのことができるようになったと同時に、機械に取って代わられた仕事も少なくない。そして、コンピューターの出現により、人が手作業で行っていたことの多くは、コンピューターにまかせれば、瞬時に行えるようになった。昔、私はコンピューターを製造販売するIBMに勤めていたが、顧客へコンピューターを販売するときに、一番説得するための説明として使われていたのは、コンピューターが人に代わって仕事をしてくれるので、人件費を削減できる、というものだ。

米国などでは、コンピューター導入によって人員削減を行い、競争力を高めた会社も少なくない。実際、最初のころは、コンピューター導入は人員削減につながると、労働組合などが反対していた。日本では、そうは言っても簡単に人員削減はできないので、コストを単純に下げることは出来なかったかもしれないが、それでもコンピューター導入によってできた余裕人員を、別な仕事に割り振ることは出来、処理の高速化とともに、会社全体の効率向上には大いに貢献した。

そして、コンピューターがネットワークでつながり、パソコン、モバイル、インターネットの普及でさらに大きな変化が起こってきた。会社内では、いつの間にか秘書がほとんどいなくなってしまうなど、いろいろな変化が起こってきたが、それだけでなく、企業のビジネスのやり方そのものが大きく変わってきた。そのため、社内の人員を異動させるなどというレベルの変化ではなく、会社のビジネスを存続するためには、自社のビジネスモデルを大きく変革しないと生きていけなくなってきた。

インターネットがはじまった当初から、「中抜き」現象が起こり始め、旅行代理店で、単純に飛行機のチケット販売手数料でビジネスを行っていたところは、なくなってしまった。日本ではそれほどでもないが、米国では次々と大手書店の多くが消えていった。そしてレコード・CD販売店なども消えていった。個別の仕事というよりも、旧来のビジネスモデルそのものが、消えていったのだ。これに対応するため、既存企業にデジタル・トランスフォーメーションが必須になっていることは、すでに1月に書いたとおりだ。

このように技術の進歩でなくなった仕事、消えて行った企業は少なくない。では、それによって人々が行う仕事は、どんどん減っているのだろうか? 米国では、いま長い間景気が良く、失業率も4%を切っており、米国としてはとても低い水準で推移している。日本にいたっては、人手不足が大きな問題となっている。景気を左右する要因はたくさんあるが、それでも、コンピューターやインターネットの広まりによって、人々の仕事がどんどんなくなっているのであれば、このような低失業率が続くのは、難しいように思う。

そう考えると、これまでの科学技術の発展は、人々の生活を豊かにし、社会全体でみれば仕事がなくなっているわけではない、と考えるのが自然に思う。もちろん、技術の発展によってなくなった仕事もいろいろあるし、企業のビジネスのやり方も、これまでのままでは倒産に追い込まれることも少なくない。

個人として、自分の仕事が技術の発展によって、どう変わっていくのか、自分の仕事は将来なくなってしまうのかを考え、心配することはとても大事なことだ。これは実際これまで起こってきたことだし、今後も起こることだから。会社としても、大きなデジタル革命の波にのまれず、これからも生き残っていくためには、デジタル・トランスフォーメーションが必須だ。

では、本題のAIによって仕事がなくなるのではないか、という心配はどうか。私はこれまでのこのような流れを考えると、比較的楽観的に思っている。AIでこれまで人間が行ってきたことの一部、もしくはかなりの部分は変わり、消えていく仕事も当然あるだろう。また、企業がデジタル・トランスフォーメーションを行う上で、AIをどう活用するか、AIによってビジネスがどう変わっていくかを考慮し、それに対応することが必須なことは言うまでもない。

ただ、社会全体として仕事がなくなる心配は、AIの場合も、私はそれほどしていない。もちろん、どんな仕事が消え、どんな仕事が新たに増えるかについては、注意が必要だ。ソフトウェア・エンジニアがどんどん必要になることは、容易に想像できるし、実際すでにそれが本格化し、優秀なエンジニアの奪い合いになっている。また、創造的な仕事をする人たちも、増えるか、少なくとも減る心配はないということも理解できる。

人と直接接する仕事も増えるか、少なくとも減る心配は少ないだろう。実際、米国のある大都市の統計でも、ヘルスケアや飲食業などの就労人口が、他の業界に比べて増えているという。このような仕事がAIをもったロボットに出来ないわけではないが、人はやはり機械ではなく、人に接してもらいたい、と思う部分が強いのではないかと、私は思っている。ただ、サービスの悪い店員などに当たると、これならAIを使って対応してくれるロボットのほうがいい、と思う場合もあるので、日本流の「おもてなし」が、今後さらに重要になってくる。

AIは人に代わって仕事をする場合もあるが、人の仕事を補完し、より効率的で有効な仕事をする場合も少なくない。AI脅威論に対応するため、という面もあるかもしれないが、IBMではAIをArtificial Intelligence(人工知能)というよりも、Augmented Intelligence(人を補完する知能)という言い方をしている。実際、AIがそのように人間の仕事を補完している場合も少なくないし、当分そのようなことが続くだろ

いずれにしても、AIによって仕事は変わり、ビジネスのやり方も変わる。仕事を変える必要がでた人々に対し、次の新しい仕事に対する準備期間、トレーニング、その間の生活保障などは、十分考える必要がある。労働組合なども、自社の、そしていままでどおりの仕事をなくさないように守る、という姿勢ではなく、世の中の変化にどのように人々が対応できるようにするか、移行期間に必要なセーフティーネットをどのように確保するかを考えることが重要だ。もしかすると、一部で実験されている、ベーシック・インカム制度(政府がすべての人に必要最低限の生活を保障する収入を無条件に支給する制度)なども、一考に値するかもしれない。

  黒田 豊


(2019年3月)

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