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デジタル・トランスフォーメーションが生き残りの鍵

新年明けましておめでとうございます。
インターネット、そしてスマートフォンなどのモバイル端末の発展からはじまり、それらを使ったEコマース、クラウド・サービス、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、シェアリング・サービス、IoT(Internet of Things)、AIを使ったビッグデータ分析や自動運転車の実現、仮想現実(Virtual Reality)、拡張現実(Augmented Reality)、仮想通貨とそれを実現するブロックチェーン技術、ロボット、などなど。ここ20年ほどの情報通信技術の発展、デジタル革命は社会のあらゆるものを変革している。そして、この流れはまだまだ続く。

この大きな変革に目を付けた多くのベンチャー企業(最近は日本語でも、英語同様スタートアップ企業とも言われる)は、次々に既存市場を破壊し、多くの分野でリーダー的存在となっている。中でも、プラットフォーマーと言われるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)4社は、市場への大きな影響が恐れられている。

実際、Amazonが出てきて、書店は苦戦を強いられ、会社がなくなってしまったところも少なくない。おもちゃ販売で有名だったToys R Usも、米国では2018年に幕を閉じた。カーシェアリングのUberなどの人気の影響で、サンフランシスコの大手タクシー会社Yellow Cabが会社更生法の適用を申請したのは、もう3年前の話だ。

新しいことが起こるとき、新しい企業が出てくるのは、珍しくない。しかし、既存企業は何をやっていたのだろうか? このような市場を破壊するようなことは、スタートアップ企業にしかできなかったのだろうか? 答えは否だ。その気になれば、スタートアップ企業がこのように市場を制覇する前に、自分たちで、既存の市場を変えていけばよかった。既存大手企業には、人材もおり、資金力もある。市場も持っている。できないはずはない。しかし現実は、そうではなく、スタートアップ企業に次々とやられてしまった。

それには、もちろん理由はいろいろある。まず、既存企業が、インターネットなどの新しい動きを、世の中を大きく変革するものとは見ず、ほとんど無視するような場合が多かったことがあげられる。しばらく自社でのインターネット等への対応を怠ったのだ。そして、インターネットへの対応を始めた企業も、あまり真剣にそれを行わず、むしろ既存ビジネスへの悪影響を考え、インターネット経由によるビジネスを控える傾向が強かった。その結果、多くのスタートアップ企業による市場破壊を招くこととなった。

すでに衰退を余儀なくされた企業も少なくないが、まだこれからも同様のことは起こってくる。既存企業もようやくそのことに気が付き、自社をいかに新しいデジタル社会に適応させ、スタートアップ企業などに市場を奪われないようにするか、緊急の課題として対応しようとしている。

自動車業界では、AIを使った自動運転、電気自動車の広まり、購入ではなくシェアリングによる自動車利用などが起こり、単なる自動車という箱を売っていた世界から、スマート・モビリティにいかに対応するかに迫られている。トヨタの豊田社長が、100年に一度の大きな変革が起こっており、それに対応しないと企業の存続にかかわると、危機感をあらわにしているのも、そのためだ。

金融業界でも、仮想通貨を実現するブロックチェーン技術が、仮想通貨だけでなく、銀行業務の一つである資金移動などにも使われ始め、今後予断を許さない状況になっている。いまやデジタル革命への対応、デジタル・トランスフォーメーションは、あらゆる企業にとって最大の課題だ。

これまで、情報通信技術(ITC)の利用は、業務の効率化、コストダウンが中心的な目的だった。しかし、いまはITCが経営の根幹を左右する時代だ。ITCによって、これまでのビジネスモデルが大きく変わってきているからだ。

デジタル・トランスフォーメーションは、その気になれば、どの既存企業にも可能だ。具体例として、百科事典で有名なブリタニカがある。昔は何十冊にもなる百科事典が自宅にあるような世界だったが、デジタル化とともに、その販売は急激に低下していった。6年ほど前、ブリタニカは紙の百科事典の販売を終了したが、その直前の紙の百科事典の売上は、会社全体の1%にもならなかったという。ここまで売上が下がったのは、いうまでもなく、人々がインターネットなどからデジタルで情報を得るようになったからだ。

たとえば、インターネットにはWikipediaがあり、多くの人が利用している。そのもととなる情報は、一般の人たちから集められている。したがって、情報収集にお金はかかっていない。情報が正確という保証はないが、多くの人たちが修正を加えることにより、ある程度の信頼性を確保している。一方、これまでのブリタニカは、情報収集や編集に多大な時間とお金をかけてきている。このままでは、Wikipediaのようなところに負けてしまいそうだが、ブリタニカは信用あるコンテンツや編集力の強みを生かし、さらにオンラインによるサブスクリプション・モデルを採用することにより、いつでもユーザーが最新の情報を得られるようにした。この結果、個人だけでなく、学校などとの契約も得られ、いままでより、はるかに高い利益を上げられるようになったという。デジタル・トランスフォーメーション成功のいい例だ。

デジタル・トランスフォーメーション成功のためには、いくつかのキーポイントがある。まずはデジタル革命による新しい世の中が来ていることを受け入れ、それに合わせて自社を変革することだ。これまでの多くの失敗は、これをせず、過去の成功モデルを守ろうとしたことに大きな原因がある。過去の成功モデルを壊し、新しいビジネスモデルを早く確立することが大切だ。言うはやさしいが、行うことが難しい問題だ。

ビジネスモデルが大きく変わっていることに加え、さらに重要なのは、顧客へのアプローチ方法と、データの使い方の変化だ。顧客はいまやいつでもどこでもモバイル端末からインターネットに接続し、SNSなども使って情報を得る。これまでのテレビ広告中心のアプローチでは、ユーザーを取り込むことはできない。データについては、AI、特にマシン・ラーニングの発展したディープ・ラーニングにより、これまでにないデータ分析が可能になった。有効な分析を行うため、データをどのように集めるかが、大きなポイントとなる。

ITCの新しい技術は、何もスタートアップ企業だけのものではない。既存企業にとっても、十分使える技術だ。もし会社が何もしなければ、スタートアップ企業や、いち早くデジタル・トランスフォーメーションに成功した会社に負け、市場から退場を迫られる可能性は高い。しかし、逆に競合より先に自社のデジタル・トランスフォーメーションに成功すれば、既存企業だからと言って、簡単にスタートアップ企業などに負けることはない。

そのために、できるだけ早期に、既存企業としては、このデジタル・トランスフォーメーションにとりかかり、今後さらに出てくる新しい技術やデジタル手法に、即時対応する必要がある。スタートアップ企業という黒船が来てから行動したのでは、もう遅い。日本企業は、得てしてこの対応が遅れがちだ。それは、日本社会が、そして既存企業が、「変化を好まない」体質を持つ場合が多いからだ。米国では、このような大きな世の中の変化に対し、ユーザーも株主も黙ってはいない。したがって、企業も先行して対応していかないと、社長といえども首が危ない。シリコンバレーから次々とスタートアップ企業が生まれ、既存企業のビジネスにチャレンジしてくるので、それに対し早期に対応しないと、市場からの退場は、あっという間に訪れるからだ。

それに比べ、日本ではユーザーは比較的おとなしく、株主も、国内の株主はおとなしい。そのため、変化を求めるより、いままでのビジネスモデルを一日でも長く持たせようと動く傾向が強い。これはとても危険なことだ。変革への対応を、一日でも先に延ばせば、それだけ、スタートアップ企業からの競争圧力が増す。米国発のスタートアップ企業は、最初は米国市場での戦いを行うが、その後間もなく日本を含む世界市場に出てくる。この黒船が日本に来てから対応していたのでは、世界市場で戦えないだけでなく、日本市場を守ることも危うい。

日本企業は、変革を先延ばししようとする社内勢力をいかに説得し、早期に変革ののろしを上げるかが、大きなチャレンジとなる。2019年は、このチャレンジを乗り越え、多くの企業がデジタル・トランスフォーメーションに成功し、今後発展していくこと、そして、このような既存企業に対抗すべく、多くのスタートアップ企業が日本でも出現し、活気ある日本社会になっていくことを願っている。

  黒田 豊


(2019年1月)

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