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株式時価総額1兆ドルを超えたApple

8月2日、Appleが米株式市場初めてとなる、時価総額1兆ドルを超えた。時価総額とは、ご存じのように会社の価値を表すものとして使われるもので、株式価格に総発行株式数を掛けたものだ。それが1兆ドルを超えたのは、Appleが初めてだ。1兆ドルを超えたときの株価が$207.04で、8月31日の終値は$227.63だったので、さらに10%ほど上昇している。

ここ数年、Appleだけでなく、IT企業の市場での勢いはすさまじいものがある。現在の時価総額トップ5社は、つい最近までAppleを筆頭にAmazon、Alphabet(Googleの親会社)、Microsoft、FacebookとIT企業がならんでいた。10年前の石油大手Exxon Mobil、小売大手Walmartなどが上位を占めていたころとは、まったく違う世界になっている。ただ、この6月末にFacebookとTwitterのSNS(Social Networking Service)大手2社が、先行き不安から株を大きく下げており、Facebookはトップ5社からはずれている。IT企業に陰りが見え始めたと言われる、そんなときのAppleの時価総額1兆ドル超えだ。

Appleそのものについてみると、いろいろ思うことがある。Appleは会社創設時、Macによって一般消費者向けのパソコン市場を一気に開花させた。ところがその後Microsoftの逆襲に合い、創業者社長のSteve Jobsは会社を追われ、会社もいつつぶれてもおかしくない状況に陥った。1990年代中頃には、2年で20億ドルも損失を出している。そんなAppleに1997年に戻ったJobsは、2001年のiPodにはじまり、2007年にiPhone、そして2010年にiPadと次々にヒット商品を出し、2011年には時価総額で世界のトップに立った。そして今回の1兆ドル超え、JobsによるApple復活のドリーム物語だ。

このドリーム物語を実現したのは、Jobsの「目利き力」と「既存技術や製品に、ひとひねりを加えて実現したビジネス・イノベーション」によるところが極めて大きい。Macの斬新さは、一般消費者向けに、初めてマウスを使ったGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を実現した製品だが、その技術はAppleで開発されたものではなく、SRI Internationalによって開発されたもので、それをまずXeroxが企業向けハイエンド商品として発売し、失敗したものだ。iPodにしても、Sonyのウォークマンがその元と言える。

こういう世の中にすでにある技術や製品のよさを見つける目利き力に加え、Jobsは、それに「ひとひねり」を加え、新たなビジネスとしてのイノベーションを起こした。Macで言えば、企業向け高級機種ではなく、一般消費者向けに購入可能な価格の商品に仕立て上げた。iPodでは、iTunesを構築することにより、ユーザーが安価に1曲ずつ音楽を簡単に購入できるエコシステムを構築した。iPhoneでは、単にiPodと携帯電話機能を合体させただけでなく、アプリの概念を持ち込み、App Storeによるエコシステムを構築して、アプリの構築を容易にするとともに、多くのアプリ開発者を引き込むことに成功した。

このように、Jobsの目利き力やビジネス・イノベーションによって成功してきたAppleだが、Jobsが2011年10月に亡くなった後、これといったヒット商品が出ず、もう7年が経とうとしている。昨年発売したiPhoneの最新機種iPhone Xも、高額な商品にしたため、売れ行きはいま一つだ。そのため、Appleの時代は、もうそろそろ終わりではないかと、ここ数年言われている。

にもかかわらず、Appleの業績は好調で、今回の時価総額1兆ドル超えの直接の引き金となった、2018年6月末(第3四半期)の数字は、売上高が前年同期を17%超え、利益率も21.6%と極めて高い。売上や利益の状況からみれば、Appleの株価は決して高くはない、ということだ。最近のAppleの株高への貢献として、トランプ政権による減税策により、Appleが海外に寝かせていた巨額の資金を、米国に持ち込むことが容易になり、その資金を使って、大量の自社株購入を5月に発表したことも挙げられる。

最近の株価上昇は、これらの材料によって、ある程度説明できるが、Appleの将来への不安材料は、少なくない。新しい魅力的な製品が、なかなか出て来ないのが、その大きな要因の一つだ。Apple Watchは2015年に発売され、Appleはこれによって世界最大の時計メーカーになったというが、これまでのiPod、iPhone、iPadのようなヒット商品になった、という印象はないし、売上金額的にも、「その他」に分類されるレベルにとどまっている。

現在のApple TV(テレビとインターネットをつなげる小さなボックス)ではなく、画面もある、いわゆるテレビを発売するとのうわさは何年も前からあったが、もうテレビの発売はないだろう、というのが大方の見方だ。自動運転車の開発にも力を入れているとうわさされるが、まだ実態は何も見えてきていない。

すでに成熟期に入っているiPhoneハードウェアを、ソフトウェアで大きく飛躍させると期待されたSiriも、Jobs亡き後、社内での開発に力が入らず、気が付いたらAmazonやGoogleなどに、スマート・アシスタント分野では、抜かれてしまっている状況だ。最近GoogleのAI開発責任者だったGiannandrea氏を迎え入れ、Siriを含むAI分野を統括し、再出発を試みる。一度リードしていた分野で、追い抜かれたものを取り戻すのは、容易なことではないが、期待したいところだ。しかし、これからしばらくは、大ヒット製品が出てくる、というよりは、引き続きiPhoneを中心とした既存製品に頼る姿が浮かびあがってくる。

また、AppleはiPhoneなどの製造を中国に依存しており、市場的にも中国はAppleの売上の19.5%を占めるなど、Appleにとって中国は極めて重要な存在だ。そこにトランプ政権は、中国からの輸入品の一部に高関税をかけ、貿易戦争を始めてしまった。中国もこれに対し、即刻対抗手段を講じている。いまのところAppleのビジネスに影響は出ていないが、Appleの今後に大きな影を落としていることは、間違いない。ただ、Appleに圧力がかかると、米国ではApple製品が値上がりし、一般消費者の政府に対する不満が高まる恐れがあり、中国でも大量の失業者が出る可能性がある。そのため、両政府とも慎重な対応をせまられているのは、Appleにとって幸いだ。

このような状況だが、今後期待できる分野もある。現在の好業績に加え、Appleはこれから伸ばそうとしている2014年に始めたApple Pay、2015年に始めた音楽配信のApple Musicなどのサービス・ビジネスで、前年同期より31%も伸びている。Cook社長も業績発表時に、サービス・ビジネスがこれまでの最高を更新した、と誇らしげに語っている。

Cook社長によると、Appleはここ4年でサービス・ビジネスの規模を倍にし、2020年には500億ドルまで持って行きたいと述べている。そして、その2年目の現在、その目標に向け、順調に売り上げが伸びているとのことだ。

もちろん、これらの業界での競合も、激しさを増している。Apple Payに対しては、類似サービスのGoogle Payや、AmazonによるAmazon Goのような無人店舗などがある。音楽配信では、先行するSpotifyやPandoraに加え、GoogleのYouTube Music、AmazonによるAmazonプライム・メンバー向けのAmazon Musicがある。Appleがこれら競合に勝っていくためには、14億を超える既存iPhoneユーザーを、いかに自社サービスに優位に活用していくかが鍵だ。

もっとも、現時点でのサービス・ビジネスの売上高全体に占める比率は、まだ18%と低く、会社全体への貢献は、十分とは言えない。iPhoneの売上高に占める比率は、以前より下がってきたとはいえ、56%と、AppleのiPhoneへの高い依存度は、まだ変わっていない。

これからAppleがさらに時価総額トップを走り続けるには、何か新たなヒット商品の開発、Siriを含むソフトウェア等による既存ハードウェアの機能大幅拡張、サービスビジネスの大きな伸び、これらの組み合わせが、いかにビジネスの拡大に貢献できるかにかかっている。

  黒田 豊


(2018年9月)

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