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テレビ番組は、アプリで見る時代

テレビ番組を含むビデオ・コンテンツの見方が大きく変わってきていることは、すでに何回か書いているが、いよいよユーザーが、そしてテレビ業界が大きく変わってきている。YouTubeがインターネットでビデオ・コンテンツを見ることを現実にしたのは、早や13年前。その後、テレビ局もインターネット経由でテレビ番組を配信し、ケーブルテレビ会社など、番組を配信する企業も、大きな変化を余儀なくされた。米国では、ケーブルテレビや衛星放送、光通信などを使った有料配信が主流で、今でも80%を超える人が加入している。

その加入者が減る、いわゆるCord Cutting、あるいは最初から加入しないCord Neverの人たちが増えると、何年も前から言われていたが、実際には、なかなかそれが進まなかった。しかし、ここ2年で状況は大きく変わった。米国市場の95%を占めるケーブルテレビ等有料放送大手13社は、2017年に150万の加入者を失った。しかも、彼らはインターネット経由の有料ビデオ・ストリーミング・サービスを開始しており、その増加分を差し引くと、実に310万の従来型有料放送加入者を失った。そして、ある予測では、ビデオ・ストリーミング・サービスのユーザー数が、2022年には従来型の有料放送加入者を超えるだろうと言われている。企業の広告費も、2年後には、従来のテレビ広告より、ビデオ・ストリーミング向けのほうが大きくなると予想されている。

このような大きな変化が起こった原因の一つは、ケーブルテレビ会社等が、ユーザーに個別チャンネルごとの契約を許さず、たくさんのチャンネルをバンドルし、ユーザーは見もしないチャンネルをたくさん契約させられて、高額の月額費用を払わされていることに対する根強い不満だ。一方、ビデオ・ストリーミング・サービス側から、この流れを作ったのは、安価なサービスを提供する大手のNetflix、Amazon(プライム・サービス)、Huluの3社、そして、それを追随するYouTube TV、Sony PlayStation Vueなどだが、それだけではない。

人気の高い個別テレビ局が、独自にビデオ・ストリーミング・サービスを始めたことが大きい。具体的には、最も人気の高いエンターテイメント・チャンネルのHBOが、2015年に$15/月のHBO Nowで独自ビデオ・ストリーミング・サービスを開始。HBOは近年、視聴者の減少に悩んでいたが、HBO Nowにより、ユーザーが500万増えたという。

また、スポーツ番組で最も人気の高いESPNも、テレビ放送ではできないような、各種情報を加えた生放送のストリーミング・サービスを行うESPN+を、この4月から$4.99/月で開始した。これは、よりアドバンスなスポーツの見方をする、スポーツ・オタク向けに開発されているとも言われている。このようなインターネットによるビデオ・ストリーミングならではのサービスは、ユーザーにとってメリットが大きい。

また、これまでNetflix等が避けていた、スポーツなどの生放送のビデオ・ストリーミング・サービスの実施、さらには、地方のローカル局の番組も加えるなど、いよいよケーブルテレビ等を解約しても、いままでどおりの番組をすべて見ることができる環境が整ってきたことが大きい。これによって、Cord Cuttingを躊躇していた人たちも、これならもう大丈夫と、移行しはじめたのだ。

ユーザー個人個人は、これにより、それぞれの嗜好に合わせ、必要なチャンネルとだけ契約し、お金も節約できることになる。テレビ番組をアプリとして見る時代の到来だ。とはいえ、個別チャンネル一つずつと契約するのも大変、と思う人も少なくないので、さきほどの大手3社のような、いくつかのチャンネルをバンドルしたサービスと契約する、というユーザーも少なくないだろう。したがって、ユーザーとしては、このような大手との契約と、個別チャンネルとの契約の2本立てになることが予想される。

個々のテレビ局にとって、ユーザーに直接ビデオ・ストリーミング・サービスを行うことのメリットは、少なくない。このDirect-to-User方式により、どんなユーザーが番組を見ているかわかるし、そのユーザー向けにターゲット広告を売ることも可能になる。これまではケーブルテレビなど、中間に入っていた配信会社が握っていたユーザー情報が、直接手に入ることは、今後のビジネスにとって貴重だ。インターネットならではの、インタラクティブなサービスも、ユーザーにとっては大きな魅力だ。

大手有力テレビ局は、2022年までに皆、このDirect-to-Userのビデオ・ストリーミング・サービスを提供するだろうとの予測もある。すでに米国4大ネットワークも実施しており、そのうちのひとつCBSでは、この2月にCBS Sportsに加え、24時間スポーツの最新情報を提供するCBS Sports HQというチャンネルを追加し、これまでの24時間ニュースを提供するCBSN、エンターテイメント・チャンネルのShowtimeを含め、500万ユーザーを抱えている。

このような個別テレビ局の動きに対し、Netflix等大手は、単に既存テレビ局の番組をインターネット配信するだけでなく、ユーザーに注目されるような、オリジナル・コンテンツでユーザーの囲い込みをはかっている。Amazonも独自コンテンツを含むコンテンツのために、年間50億ドルという大きな資金を使っているという。

Amazonは、ビデオ・コンテンツ・サービスをプライム会員向けのサービスとして提供しているので、自社のEコマース・ビジネスとの相乗効果が大きい。Amazonは、そのあたりの数字を開示していないが、社内資料によると、2017年までに、世界で500万の新規プライム・ユーザーが、ビデオ・ストリーミング・サービスがほしいためにメンバーになった模様だ。また米国でAmazonのビデオ・ストリーミング・サービスを見ている会員は2600万にのぼるというが、彼らがプライム・メンバーになることにより、Eコマースでいろいろなものを買ってくれれば、そのビジネス効果は大きい。

守勢に立つケーブル会社や光通信によるテレビ番組配信を行う電話会社なども、次々に対応を進めている。ケーブル大手のComcastは、4大ネットワークの一つNBCを2011年に買収し、コンテンツ事業に力を入れている。電話会社大手のAT&Tは、衛星放送のDirecTVを買収し、特にその持つビデオ・ストリーミング・サービスであるDirecTV Nowに力を入れている。DirecTV Nowのユーザー数は、2017年第4四半期に368,000増え、AT&Tの光通信による有料テレビ番組配信、DirecTVの衛星放送のユーザー減少をカバーし、ユーザー数総計で、プラスを維持している。

さて、このような大きな変革が起こっているテレビ業界で、どこが勝者となり、どこが敗者となるのか。ひとつ確実に言えることは、コンテンツに魅力がないと、ユーザーはついて来ないということだ。そのコンテンツとは、単に番組の内容だけでなく、そのリアルタイム性、インタラクティブにどんなことができるか、どのようにパーソナライズできるかなど、ユーザー・エクスペリエンスすべてにかかわる。

そして、ビジネスモデルでは、無料広告モデル、有料プラス広告モデル、有料広告なしモデル、また、その価格はいくらか。さらに、Amazonのように、有料メンバーになれば得られる付随したサービスは、どんなものがあるか。これらは、ユーザーが、どのサービスを選ぶかの重要ポイントだ。これらのバランスをうまく取り、ユーザーの心を捉えるのは、どこか。これからの各社の動きがさらに楽しみだ。

  黒田 豊


(2018年5月)

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