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進むターゲット広告の光と影

インターネットのない世界では、広告といえば、マス広告が中心だった。新聞、テレビ、ラジオ、雑誌などによる広告は、その新聞やテレビ番組を見ていると思われる人をターゲットにしているとはいえ、かなりおおまかなもので、幅広い人に向けたマス広告だ。

それが、インターネットの出現により、個人向けのターゲット広告が可能になった。まず最初に現れたのは、Amazonなどが、ユーザーの購入履歴などから、その人の好みや、ほしいものを想定し、レコメンデーションを提供した。そして、Googleが始めたサーチ広告。サーチで使ったキーワードに関連した情報を、ユーザーが探しているのは明らかなので、それに関連した広告を出すことにより、見込みユーザーにターゲットを絞った広告を提供することができた。これだけのことで、Googleは大きな利益を出し、巨大企業となった。また、GoogleはGmailを使うユーザーに対し、そのEメールの内容に関連したターゲット広告を出すようにしている。

これらのターゲット広告は、ユーザーが行う購買やサーチといった、トランザクションをもとにしたターゲット広告だ。それだけでも有効なターゲット広告は可能だが、インターネット上には、まだまだたくさんの個人に関する情報がころがっている。個人がどんなキーワードでこれまでサーチを行ったか、どこのサイトでどんなものを見たか、購入したか、Eメールでどんなことを書いたか、SNSでどんなプロフィールをアップしているか、どんな人とつながっているか、どんなものに「いいね」をしたか。まだまだたくさんの情報が、インターネット上には存在する。

インターネット上の情報だけではなく、実店舗で何かを購入する場合も、その店がくれるポイントなどを集めるため、ポイントカードを使うと、その人がどんなものを、いつ、どこで買ったかもわかる。これらオンラインとオフラインの情報を集めれば、よりその人のことがよくわかってくる。

それぞれの店や、インターネット上のサイト、SNSなどが、ばらばらに自分たちだけで集められる情報をもとにしていると、個人に関する情報には限度があるが、最近は、それらの情報が売買されるような仕組みがあり、個人がいろいろなサイト、お店でとった行動が集約される仕組みができている。そのため、たとえば、ある店で商品を買うと、それに関連した広告が突然自分のSNS上に現れる、というようなことが起こる。

ある人のインターネット上での行動、実店舗での行動、さらに会員登録などで、住所、年収、家族状況などを提供していた場合、これらのデータが集約されると、その人について、実に細かいところまでわかってしまう。この情報をもとに、どんな広告やレコメンデーションを提供するのが最も有効かを分析し、判断するには、AI技術を使ったビッグデータ分析が大いに役立つ。

こんな個人情報を勝手に使ってほしくない、と思っても、多くの無料サービスの場合、加入するときの規約に、このような情報が使われることを許可する文が入っており、ユーザーはその無料サービスを使うことにした段階で、データを提供していいと認めたことになる。SNSを含め、各社とも個人のプライバシーには注意を払っており、個人名が特定できないような仕組みを作っていると言っているが、その詳細をユーザーが検証することは難しい。

また、ロケーション(場所)をベースにした広告も多く提供されている。たとえば、ある店の近くに来ると、そのお店の割引クーポンが広告としてスマートフォンに出てくる、というような仕組みだ。何かのアプリをスマートフォンで使う場合、自分のいる位置情報を、そのアプリが使っていいか聞かれる場合がある。自分のいる場所から近いお店を探す場合や、最新の交通状況、その場所のピンポイントの天気予報などを知るためには、位置情報が必要なので、自分の位置を知らせるケースも少なくない。

仮に、自分のいる場所を知らせたくないので、それを拒否しても、スマートフォンがオンになっていれば、その居場所をある程度特定することは、それほど難しくない。携帯電話会社は、その人がどの基地局の近くにいるかで、おおよその場所を特定できる。たくさんあるWifiスポットからも、スマートフォンでWifiをオンにしていれば、その近くにいることがわかる。専門用語でいう、ジオフェンシング(Geo Fencing)という手法で、お店などから一定距離内に来た場合、広告を出すなどができる仕組みだ。ある調査によると、モバイル向け広告の40%は、位置情報に関連したものだという。

位置情報は、ユーザーが意識していなくても、その情報を使われている可能性が高いが、他にもユーザーがしゃべっていることを勝手に聞かれ、その情報が使われているのではないかと疑っている人もいるようだ。ただ、これについては、そこまでしても、文脈からその内容をとらえることは極めて難しく、またデータ量も膨大になるので、実施していない、というのがSNS会社などの回答だ。

ターゲット広告は、広告主にとって広告の有効性が高まるだけでなく、ユーザーにとっても、自分のほしいものに関する広告が来れば、むしろ有効な情報を得られることになり、便利な面も少なくない。問題なのは、自分に関するどんな情報がどんな形で売買され、ターゲット広告となって自分に提供されているのかが、ユーザーには全くわからないということで、個人個人の不安材料になっていることには間違いない。

なかでも問題なのは、ターゲット広告が、単に商品やサービスを売るための広告だけでなく、政治的に人々を扇動するために使われ始めたことだ。現在も調査が続いているロシアによる米大統領選挙への関与は、すでに間違いない事実のようだ。

そして、つい最近、Facebookの個人情報が第三者により不正に政治活動に利用された、という問題が発生し、大きな話題となっている。新聞等で報道されているので、知っている人も多いと思うが、イギリスのCambridge Analyticaという会社が、Facebookでの個人情報を利用し、米国大統領選挙でトランプ氏が有利になるよう、これら個人データを利用した、というものだ。イギリスのEU離脱投票のときにも、使われた可能性があるようだ。これは、第三者によるデータの不正利用だが、それをFacebookが十分監視し、防止することができなかったことに問題がある。

日本でも個人情報保護法により、個人情報の管理がいろいろな形で規制されているが、実際にどのように監視され、不正利用を防止することができるかが問題になる。Facebookが問題の矢面に立っているが、個人データを含むビッグデータを利用した、ターゲット広告を行っているIT企業は多い。今後さらに広がる予想であり、今回の問題は、Facebookだけでなく、Googleをはじめ、多くのビッグデータを分析してビジネスにする企業すべてにとっての問題だ。そのため、Facebookだけでなく、大手IT企業の株価は、軒並み下落した。

SNSにしろ、各種無料サービスにしろ、個人情報がどのように使われるか、また、不正使用をどこまで防ぐことができるのか、個人ユーザーとしては、大きな不安をかかえていることが、改めて明確になってきた。Facebookは、今回の事件を契機に、さらに個人情報の保護を厳しくし、取り締まると明言しているが、どこまで実行できるかは、これからだ。

とはいえ、いま使っているGoogleのサービスやSNSなど、すべてをやめてしまっては、不便になること極まりないし、それらを使うことによるメリットはたくさんある。幸いなことに、インターネットでの無料サービス使用で提供する個人データは、どこまで開示するか自分でコントロールできるものであり、知らないうちにカメラで撮られてプライバシーを侵害される、などということとは異なる。インターネットで便利になった生活を続けるには、インターネット上での個人行動は、秘密なく誰に知られても問題ないようにしておく、ということなのかもしれない。

  黒田 豊


(2018年4月)

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