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スマート・モビリティをめざす自動車メーカーとIT企業

1月のラスベガスでのCES、そしてそのあとで行われたデトロイトでの自動車ショー。そこは自動車メーカー各社、そして自動車産業、さらにはスマート・モビリティという大きな市場をめざすIT企業の、陣取り合戦の様相を呈した。

ここ数年の車にかかわる変革は、トヨタ自動車の豊田章男社長に「“100年に一度”と言われる大変革の時代に直面している」と言わせるほど、大きなものとなっている。それは、一つの変化だけではなく、いくつもの変化が一度に襲ってきているからだ。その中には、「つながる車(Connected Car)」、「スマート・アシスタントを搭載する車」、「電気自動車(EV)」、「自動運転車(Autonomous Vehicle)」、「シェアリング(Sharing)」、そして、それらと道路環境を含めて全体システムをよりよくする「スマート・モビリティ」がある。このうち、Connected、Autonomous、Sharing、Electricityの頭文字を取って、CASEという場合もある。

「つながる車」では、車が運転中にネットワークにつながることにより、交通情報が得られたり、それによって、カーナビの経路が変更されたりするのは、すでに多くの人たちが経験していることだ。また、車が故障したり、事故を起こしたりした場合に、自動的にセンターに連絡が行き、助けを呼ばなくても来てくれたり、また、運転時の状況を把握し、定期的にその状況を知らせてくれたりする。

このつながる車に、先月のコラムに書いた、スマート・アシスタントが近々搭載され、AmazonのAlexaやGoogleのGoogle Assistantに、家にあるAIスピーカーと呼ばれるものなどと同様に、いろいろ聞いたりすることができたり、決済ができたりするようになる。すでにトヨタは今年中にAlexaを搭載した車を販売すると言っているし、BMW、FordなどもAlexaの採用を検討または決定している。Google Assistantが使えるようになる既存Android Autoを搭載している車も数多い。

EVは、すでに何年も前から販売されているが、バッテリーの充電に時間がかかること、また、一度の充電で走行できる距離がガソリン車に比べ短いこと、また販売されていたのが、当初小型車に限られていたことなどから、それほど普及していなかった。トヨタなど日本メーカーは、そのため、電気とガソリンをうまく使い分けるハイブリッド車を主力とし、この分野では世界をリードしてきた。また、トヨタは水素を使った燃料電池車も開発し、EVではなく、将来はこちらに市場を向かわせようとしていたように見える。

ただ、ここ数年は、米国の新興Tesla社が小型ではない通常の大きさで、スタイルなども魅力的な車を出し、1回の充電当たりの走行距離も、ガソリン車に負けないレベルまで達してきた。価格も、最初のうちはかなり高かったが、現在は他の高級車とほぼ同じ程度になり、大衆車ほどの広がりはないものの、かなり幅広い所得層にも受け入れられるようになってきた。また、大気汚染が大きな問題となっている中国が本格的にEVシフトし、欧州でも環境保護の観点から、EVに限定はしていないものの、ガソリン車の発売を何年か先には禁止するという国も出てきて、世界中がEVシフトを起こしている。

そんな中、今度はIT業界の雄であるGoogleが、自社の持つAI技術と豊富な資金を活用して、自動運転車の開発に取り組み、すでに技術的には実用段階となってきている。このコラム記事を書き終える直前に、米国カリフォルニア州では、この4月から、緊急時用の運転手の乗らない自動運転車の一般公道でのテストが可能になった。自動運転車の技術を開発しているIT企業も増え、自動車業界も提携戦略などを含め、各社みな数年後には自動運転車の発売を予定している。これまで自動車業界には、部分的な技術を提供していただけのIT業界が、自動車業界に本格参入してきた格好だ。

Google(現在は会社を分けてWaymo)は、少なくともいまのところは自社で車を開発するのではなく、自動運転技術や、スマート・アシスタント技術、またたくさんのセンサーから収集するビッグデータを分析活用したサービスなどを中心に考えているようだ。しかし、自動車業界としては、このあたりのビジネスを取られてしまうと、車という外枠の箱を作っていただけでは、それほど儲からなくなる可能性も否めない。これは、パソコン業界でIntelなどのチップメーカーや、Microsoftなどのソフトウェア・メーカーは高収益のビジネスを行っているが、それらの部品をもとにパソコンそのものを製造、販売している会社は、利益が出にくい状況になっているのと似ているからだ。

車の作られ方、そして車の持つ機能がこのように大きく変化する中、車の使い方にも大きな変化が起こっている。Uberをはじめとする車のシェアリング・サービスの大きな広がりだ。すでにタクシーやバスもシェアリングの一種で、以前からあるものだが、最近の一般車のシェアリングの広がりによって、ユーザーの車に対する考え方も変わりつつある。特に米国では、大都市のど真ん中でもない限り、タクシーはあまりたくさん走っていないし、電話で呼んでも来るまでに時間がかかる。私の住んでいるシリコンバレーでも、San Franciscoの中心部にでも行かない限り、道をタクシーが走っているのは、ほとんど見かけない。

これに対し、Uberなどは、スマートフォンで簡単に呼べ、どんな運転手が来るか、また、いまどのあたりまで来ているかなどがわかり、さらに支払いも、登録してあるクレジット・カードから引き落とされるということで、支払いも簡単にできるなど、とても便利なため、どんどん広がっている。タクシー業界からの反対も当然あり、そのため、Uberの一部サービスができない街や国もあり、日本もその一つだが、世界的な大きな流れとしては、この車のシェアリングという動きは止まる様子はない。

そして、これに自動運転車の機能を掛け合わせると、運転手に支払う給料も不要になり、乗る側も、どんな運転手が来るか、心配しなくてもいいようになる。そうなってくると、現在のシェアリング・サービスを行っている会社も、車をサービスとして提供したい個人と、そのようなサービスを必要とする人をマッチングするだけでなく、自らがタクシー会社のように自動運転車を持ち、サービスを提供するようになってくるだろう。

これはタクシーだけでなく、バスやトラックでも同じようなことが起こるし、むしろバスやトラックのほうが、早くそれが起こる可能性がある。バスも決まった路線を走り、決まった停留所で止まるだけでなく、もっとユーザーに便利な形になる可能性も十分ある。これまでトラックを使って行われている商品配送も、自動化の流れに向かっており、すでにシリコンバレーのBurlingame市では、Udelvというベンチャーが、自動運転車による食品スーパーの商品配送実験を始めているし、いくつもの会社が自動運転車による商品配送サービスを検討、準備している。

また、このような時代の流れに合わせ、車やトラック、バスと言った乗り物自体も進化しようとしている。トヨタは今年のCESでe-Palettというコンセプトを発表した。これは一つの車両が、あるときはシェアリング用の車になり、あるときは商品配送に使われる。それだけでなく、移動型の小売店になるなど、そのときそのときのニーズに合わせ、機能を変化させるマルチ機能車だ。CES関係者も、この新しいコンセプトに大いに賛同したようで、今年のCESのBest of Best Awardを受賞している。

ここまでは、道路を走る車、バス、トラックの話だが、これらの車同士がネットワークで情報を共有し、さらに道路上の信号、車線の使い方なども変えることができれば、交通システム全体が効率化する。実際、Los Angelesでは、バスの運行状況を見て、遅れているバスを定時に戻すようにするため、経路の信号を優先的に青にし、信号待ちを少なくするということを、すでに何年も前から行っている。これから、定期運行バスだけでなく、あらゆる車からの情報をもとにして、交通システム全体を効率化し、ユーザーは、自分で車を持つのではなく、必要なときに必要な交通手段を使うことができるようになれば、本当の意味でのスマート・モビリティが実現する。そのためには、間もなく始まる、高速で低遅延の新しい5Gネットワークも欠かせない。

もちろん、そこにいたるまでには、セキュリティの問題、事故が起こった場合の法的な問題、保険の問題、人々がこのような新しい仕組みに合わせるための思考の変化と、それにかかる時間の問題、既存交通網からの移行の問題など、数えればたくさんの課題があることも確かだ。このような課題を解決し、本当の意味でのスマート・モビリティが実現するまでに、どれくらいの期間がかかるかわからないが、ブラジルが昔、新しい首都としてブラジリアを作ったときのように、何もないところに実験的な街を作るようなことができれば、その街では、このようなスマート・モビリティが比較的早い時期に実現する可能性は高い。

すでに米国大手自動車メーカーのFordは、1月のCESにおけるJim Hackett CEOのキーノート・スピーチで、スマート・モビリティを目指していることを表明し、Transportation Mobility Cloudという、誰にでもオープンなプラットフォーム構想を、シリコンバレーのAutonomic社と立ち上げたと発表している。この中で、Fordは車の自動運転やシェアリングだけでなく、街全体の交通、人や物のモビリティを最適にするシステム構築を目指している。

車とITが融合し、自動車会社も単に車という箱(ハードウェア)を売るだけでなく、それを使ったいろいろなサービス、スマート・モビリティを提供する会社に変身する必要に迫られている。そこに新たに参入してきたIT企業、そして新興ベンチャー企業。スマート・モビリティ社会実現に向け、既存自動車メーカー、新規参入メーカー、そしてIT企業の大きな戦いが始まっている。

  黒田 豊


(2018年3月)

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