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ベンチャー企業創業者が、追い出されたあと

6月20日、シェアリング・エコノミーのライドシェアで最も成功しているUberのCEO、Travis Kalanickが辞任した。ここしばらく、Uberでは、女性社員へのセクハラ問題等で、経営幹部が何人も辞めていったが、ついに創業者CEOのKalanickまで辞任することに、衝撃が走った。Uberは、2009年に設立され、現在は世界650都市でサービスを行い、その売上は65億ドルに上り、時価総額は非上場企業なので、正確にはわからないが、約680億ドル(約7兆5000億円)といわれている。数ある未上場企業のなかでも、最も成功している企業だ。

ただ、そのやり方には、強引なところがあり、米国だけでなく、世界各地で、違法と訴えられるなど、ともかく強引にビジネスを広げ、法的に問題があると指摘されれば、それに対応していく、というやり方で、紛争も絶えない。また、Uberは自社で車や運転手を持たず、ライドシェアの運転手との契約問題でも、訴訟が起きている。そして今度は社内でのセクハラ問題だ。

それにしても、Kalanickは議決権を持つ株式の過半数を持っており、議決によってCEOを追われることはない。しかし、大口の投資家であるベンチャーキャピタル数社は、このままKalanickがCEOにとどまっていると、Uberの世間での評判が悪くなり、今後のビジネスにも大きな影響が出るのではないかと考え、Kalanickに辞任をせまり、Kalanickも大口投資家が皆CEO辞任を求める状況で、CEOに居座るのは得策ではないと判断し、自ら辞任の道を選ぶこととなった。

Uberは、その強引なやり方に賛否両論があったものの、ビジネスとして大きく成功してきた。そして、そのUberをここまで引っ張ってきたのは、間違いなくKalanickだろう。そんなKalanickが辞任して、今後Uberはどうなっていくのか。当面は14人の幹部コミティによる合議制でビジネスを進めるというが、そんな状態が長続きするとは、とても思えない。おそらく新しいCEOを選ぶことになるだろうが、そのCEOのもと、Uberがこの先どうなっていくか、大いに注目されるところだ。

Uberのように、米国では、ベンチャー企業の創業者が辞任に追い込まれることは、決して珍しくない。最も有名なのは、Appleの創業者Steve Jobsが1985年に辞任に追い込まれた話だろう。Appleは創業から個人向けのパソコンを販売したが、創業者のSteve Jobsも、技術系のSteve Wozniakも、企業経営をするには力不足と判断され、CEOには別な人間がなっていたが、1983年、Appleをさらに大きく飛躍させるため、Job自らが選んだといわれる、飲料会社PepsiCo社長だったJohn Sculleyを、CEOとして迎え入れた。

最初はJobsとの黄金コンビなどと言われていたが、その後、Macの過剰在庫などの問題が発生し、SculleyはJobsをMac部門の責任者からはずそうとした。これに対し、Jobsは逆にSculleyを追い出すように動き、それを察知したSculleyが取締役会に、Jobsと自分のどちらを選ぶかをせまり、取締役会がSculleyを選んだため、Jobsは会社を離れることとなった。

しかし、その後、MicrosoftがWindowsを前面に出し、ビジネス界を圧倒すると、Appleは窮地に陥った。もはやAppleは死に体となっていた。一方、Appleを追い出されたJobsは、NeXT社をAppleを去ったその年に設立し、革新的なオブジェクト指向のコンピューターを開発、1988年に販売開始した。ハードウェアは、それほど売り上げられなかったものの、オブジェクト指向のソフトウェアは、その分野の発展に大きく貢献したと言われている。

さらにJobsは、映画のLucasFilmのコンピューター部門をPixar社として設立させ、そのマジョリティー・オーナーとなった。そして、Toy Storyをはじめとする、いくつものヒット作品を出し、大きな成功を納めていた。

そこでAppleは、開発の行き詰まっていたソフトウェアにNeXT社のソフトウェアを活用し、さらにJobsをAppleに戻すべく、NeXT社を1997年に買収した。その後、Jobsは暫定CEOを経て、2000年に正式なCEOとなった。Jobsは、Apple再生のため、パソコンではない、携帯音楽端末に注目し、2001年にiPodを発表、音楽CDレーベル企業を巻き込み、ITunesを構築して、iPodとiTunesによるエコシステムの構築に成功した。その後のAppleの成功は、みなさんご存知のとおりだ。

結果的には、一度追い出したJobsを再度迎え入れ、大成功したAppleだが、Jobsを最初から追い出さず、CEOにしていたら、今のような成功をおさめられたかというと、そうとも言えないようだ。それは、Jobs自身が、Appleを追い出され、再びゼロから新しいことにチャレンジできたことが、自分の人生にとって、一番良かった出来事だった、と話しているからだ。Appleにいたままでは成長しないままだったかもしれないJobsが、外に出て見事成長して帰ってきたので、いまのAppleの成功がある、ということだろう。

他にも有力ベンチャー企業の創業者で、CEOを追われた人としては、TwitterのJack Dorsey、YahooのJerry Yangなどがいる。Dorseyの場合、Twitter創業者の一人で、2006年の創業時からCEOを務めていた。設立当初の立ち上げに貢献したDorseyだったが、設立仲間との意見の食い違いから、2008年には早くもCEOを退任、取締役会会長にはどとまったものの、日々の事業活動からは、離れることになった。その後Dorseyは、2009年にモバイル・ペイメントのSquareを設立し、大きな成功を収めている。

伸び悩んでいたTwitterは、2011年にDorseyをプロダクト・チーフとして呼び戻し、2015年にふたたびCEOにしている。ただ、Squareも成功している会社のため、Dorseyは、現在のところ、SquareのCEOも継続しており、2つの急成長企業のCEOを兼務するという、異例の事態が続いている。このままこれが続き、両社を成功に結びつけられるのか、それとも虻蜂取らずになってしまうのか、今後が注目される。

Yahooの場合、1994年会社設立当初は、外部からの人間をCEOに迎え、しばらく経ってから、創業者のYangが2007年にCEOに就任した。しかし、Microsoftからの約440億ドルの買収を拒否したことなどから、わずか1年半足らずでCEOを退いている。その後も、Chief YahooというタイトルをもってYahooに残ったが、彼のYahooでの影響が、買収話の成立を妨げているとして、2012年にYahooからの退社に追い込まれている。

伸び悩むYahooは、今年、大手電話会社のVerizonに買収されることになった。その金額は約48億ドルと、Microsoftが買いたいと言った金額の10分の1に近い額だ。もはやYangが戻って立ち直せるYahooは存在しない。

シリコンバレーを中心として、米国では、ベンチャー企業で成功し、大企業になるところも少なくない。しかし、ベンチャーを立ち上げるアイディアや技術力を創業者が持っていたとしても、学生や大学を卒業したばかりの人間が会社を立ち上げた場合、会社を経営していく実力が伴っていない場合も、少なくない。そこで、ベンチャーキャピタル等、その会社に投資した人たちが、すでに会社経営経験のある人を、外部からCEOに連れてくることも多い。

一方、創業者も、自分に実力が伴ってきたときには、自分がCEOになって、自分の作った会社をリードしていきたい、という気持ちを持つのも、自然なことだろう。それがうまく行くためには、創業者と外部から来たCEOが一緒にうまくやっていくことだ。うまく行ったように見える例としては、Googleがある。会社設立当初は、創業者の一人、Larry PageがCEOを務めていたが、投資家たちの進言を受け、2001年に、大手ネットワーク・ソフトウェア会社NovellのCEOを4年間務めていたEric Schmidtを、CEOに迎え入れた。そして、Schmidtは創業者のPage、Brinと、うまく協力しあいながら会社を大きくし、2011年に再びPageにCEOを譲っている。

GoogleのPageの場合、外部から来たCEOとうまく行き、社内に残ったままCEOとしての役割を果たすまでに成長し、自分の会社のCEOに戻ることができた。一方、AppleのJobsの場合は、社内ではうまく行かず、外部に出て自ら成長し、再びAppleに戻ってAppleの成功に大きな役割を果たした。さて、UberのKalanickの場合はどうか。彼がすばらしい経営者になるには、いまのままではなく、より成長し、大人になる必要がある、というのは、多くの人が認めるところで、本人もそのように思っているところがあるようにみえる。さて、Uberから出たKalanickがどこかで成長し、そして将来、Uberに戻ってくることが、あるだろうか? 今後のUber、そしてKalanickに注目したい。

  黒田 豊


(2017年8月)

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