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製品がそろいはじめたVR(仮想現実)市場は、どこまで広がるか

VR(仮想現実)が騒がれ始めてから、しばらく経つが、今年は一般消費者にも手の届く価格の製品が出揃ってきた。それにつれ、今年は「VR元年」などと言われ、その将来性がたくさん語られている。確かにその用途は幅広いものがあるが、まだ現時点では、どのような市場になっていくかわからず、ともかく世の中が騒いでいる、という状況だ。いわゆるHype Cycleのピーク期にあたり、世間の期待が実際その技術がもたらす世界より大きい可能性がある時期のため、これからどのような市場になっていくか、冷静に見ていく必要がある。

VR(Virtual Reality)については新聞テレビ等でたくさん報道されているので、ほとんどの人が知っていると思うが、簡単に説明すると、ゴーグルのようなヘッドセットを顔に付け、その中に映し出されるコンピューター等で作られた、仮想の現実を体験するものだ。ちなみに、これに似たものとして、AR(Augmented Reality、拡張現実)というものがあるが、こちらは、現実にあるものに、別な画面を重ねて表示するもので、わかり易いものとしては、スマートフォンのカメラに見えるものに、それが何であるかの説明を画面上で加えるものや、最近流行のポケモンGOなどがこれに当たる。

VRで行う仮想体験と言われるものは、大きく2つに分かれる。全く現実にないものや、過去に映写したものの中を、あたかもその中にいるかのように、360度周りを見て回れるものと、もう一つは、現実にいま行われているスポーツの試合や、コンサートなどの会場で、360度カメラをもとに、あたかもその現場にいて、臨場感溢れる体験が出来るものとがある。後者は、仮想的に作られたものというよりも、現実そのものを、その場にいないにもかかわらず体験できるもので、「仮想現実」という言葉が必ずしもしっくりこないが、一般的には、これもVRの一つと言われている。

一般向け製品として、今年3月に、一昨年Facebookが買収したOculusから$599のOculus Rift、4月には、台湾HTC社のHTC Viveが$799で発売された。ただし、これらはヘッドセットのみの価格で、これを利用するには、高性能な、通常$1000以上するパソコンへの接続が必要となるので、そのようなパソコンも購入することを考えると、まだ高価と言える。

しかし、10月に入り、3月発売予定から延期されていた、Sony PlayStation4(PS4)用のPlayStation VRが$399.99で販売開始された。PS4とともに使うものなので、PS4は別途必要となる。さらに、Googleが、Daydream Viewを$79で11月から発売すると10月に発表した。ただし、Googleのものは、スマートフォンとともに使うもので、現在はGoogleが同時に発表した、Google Pixelというスマートフォンのみで使用可能となる。SamsungのSamsung Gear VRというヘッドセットも、すでに$99.99で発売されているが、これもSamsung Galaxyスマートフォンとともに使う必要がある。もっと安い簡易的なものでは、Googleのダンボールで作ったGoogle Cardboardが$15で販売されており、スマートフォンとともに、簡易なVRを体験することが出来る。

さて、このように一般消費者にも十分手が届くところまで来たVRだが、その使い道は、というと、まずはやはりゲームだ。ゲームをVRで臨場感あふれる形で遊ぶのは、容易に想像できるだろう。いまやゲームの主力はVRに移りつつあるとも言われている。一方、最初に話した、スポーツなどの生中継を、VRを使って、あたかもその場にいるように体験することも始まっており、すでにリオ・オリンピックや、米国でのNBAバスケットボールの試合でも、VRで楽しむことができるものが、インターネット経由で配信されている。この他、購入前の家具等を部屋に置いたイメージのシミュレーション、建設中の建物のデザイン確認のためのシミュレーション、遠隔医療等ヘルスケアでの活用、旅行の仮想体験、教育への利用など、多くのアプリケーションが考えられており、すでにいろいろな事例も出てきている。FacebookのZuckerberg社長は、VRが今後のSNSにとって、大きな役割を持つと常々述べている。

このように、大きな広がりが考えられるVRに対し、市場予測も強気な数字が並んでいる。現時点で市場に出回っているVRヘッドセットは1000万台以下と言われているが、2020年には、それが8000万を越えるとの予測だ。別な調査会社の予測では、2018年ですでに1億7000万になるのではないかとの予測もある。一般消費者向け市場は、大きく二極化し、一つはゲームなどで本格的にVRを使いたい人達がOculus、HTC、Sonyなどの数百ドルのものを買う市場。もう一つは、その他多くの人達が、とりあえずスマートフォンとともに$100以下の安価なものを使う、という市場に分かれると予想される。実際、Stanford大学で、VRのクラスを取っている120人の学生に聞いたところ、$600するVRヘッドセットを買うか、という問いにYesと答えたのは、一人だけだったという。

さて、このように広がりが期待されるVRだが、問題もいろいろとかかえている。まずは単純に価格の問題があるが、これは、Google DayDream Viewなどの出現で、大きくその解決に前進が見られる。このような低価格なヘッドセットが、特定のスマートフォン以外の、どのスマートフォンでも使えるようになれば、価格の壁はある程度解決が見られるだろう。ヘッドセットとパソコンやゲーム機をつなげる高性能なものについては、コードでつながっていることが不便との声も上がっているが、低価格のスマートフォン利用のものでは、その心配はない。

もっと大きな問題は、健康に関連した問題だ。VRヘッドセットは、身体の動きに合わせて、画面で見る方向も変わるが、そこには微妙な時間のずれが起こる。そのため、「VR酔い」と言われるものを起こす場合がある。また、目から至近距離で画面を見るため、目に大きな負担がかかり、目の疲れも懸念される。このようなことから、まだVRは長く見ないほうが安全ということで、VRコンテンツも短めにすべきとの意見が出ている。しかし、最近のゲームは長く遊ぶように出来ているものも多いし、スポーツ観戦を考えても、試合時間は決して短くない。そのため、いかにVR酔いが起こらないような、そして目が疲れにくいシステムが開発できるかが、VRがこれから本格普及するかどうかの、大きな課題だ。実際、3D映像が話題になったときも、3D画面を見ていると頭が痛くなる人もいるし、実際に目で見ている生の現実に比べ、3Dで作られた画面の不自然さから、3Dテレビなどは、テレビ会社の熱心な販売推進にもかかわらず、普及していない。VRにも同様のことが起こる可能性は、否定できない。

もう一つの大きな問題は、VRコンテンツだ。3Dのときもそうであったように、VRを楽しむためには、それ専用のコンテンツを作成しなければならない。ゲームを含むエンターテイメントの世界で言えば、コンテンツ製作者はVRがどれくらい世の中に広がるかを見極めながら、VRコンテンツを製作していく。一般消費者は、VRでどれくらい面白い、あるいは役に立つコンテンツがあるかによって、VRシステムの購入を決める。いわゆる「にわとりと卵」の問題が生じる。

また、VRが初めて世の中に出てきたのは、30年以上前で、すでにヘッドセットを使い、今日語られているようなVRのアプリケーションについても、話題になっていた。その後、長い間、話題から消えていたVRだが、技術の進歩とともに、再度大きな話題になっているのが、今回だ。注目すべきなのは、そのときの話題の中心だった、私も当時会って話をしたことのある、VPL Research社の創業者Jaron Lanierが、VRによって人の嗜好等の詳細なデータが取られ、VRに没入させることにより、その人の考え方が大きく影響されたり、意志が操作されてしまうことを心配していることだ。

VRとは異なるが、10年ほど前、Virtual World(仮想世界)というものが流行ったときがある。そのころをご存知の方は、 Linden LabのSecond Lifeというものがあったのを覚えているだろう。パソコンをベースにしたものだが、自分の分身としてアバター(avatar)を作り、仮想世界でいろいろなことが行えるものだ。当時のIBMの社長は、その仮想世界で自分のアバターを作り、社内会議まで開くほどだった。一時は100万人を超えるユーザーがいたようだが、いつの間にか、人々の記憶から消え去ってしまった。

いずれにしても、まだVRははじまったばかり。今日のVRがどこまで広がるかは、健康問題や、コンテンツに関する、にわとりと卵の問題、そして、VRを使って人の意見が誘導されるようなことがないか、といった問題が、どのように解決されるかにかかっている。このコラムで紹介した各社に加え、MicrosoftはAR/VR向けにMicrosoft HoloLensを開発し、すでに開発者向けに提供しはじめている。Appleも、まだ何も発表していないが、AR/VR関連製品を開発中で、近々発表があるのではないかとのうわさだ。VR関連ベンチャーは、2015年末で、すでに米国で120社あるという。その何社が生き残り、成功を収めるか、有力企業ではどこがこの市場で優位に立つか。そもそもこの市場はどれくらいの規模に成長するのか、それともしないのか。成長していくとすれば、どれくらいの時間がかかるか。今後注目すべき市場のひとつには違いない。

  黒田 豊


(2016年11月)

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