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シェアリング・エコノミーと既存企業の共存は可能か?

ここ数年、シェアリング・エコノミーという言葉をよく聞く。その先頭を行くのは、米国サンフランシスコで2008年に創業した民泊を仲介するAirbnbと、同じくサンフランシスコで2009年に創業した車のライドシェアを仲介するUberだ。どちらもまだ株式上場していないが、最新の投資ラウンドからみる会社の評価額は、それぞれ240億ドルと625億ドルと、未上場企業としては、破格だ。

実際、既存大手企業の時価総額と比べると、その大きさがうかがえる。たとえば、ホテルチェーン大手のMarriottの時価総額は169億ドル、自動車大手のGMの時価総額は550億ドルと、それぞれAirbnb、Uberに比べると、低い数字だ。AirbnbやUberがこれほど高い評価を受けているのはバブルだ、という意見もあるが、その一方で、AirbnbやUberのこれからの伸びの可能性を考えると、決して高くない、という意見もある。

そもそもシェアリング・エコノミーとは何か。最近出てきたこの言葉の定義としては、「個人が保有する遊休資産の貸出しを仲介するサービス」というものが一般的だ。しかし、考えてみると、何かを「シェアして使う」ということは、ずっと以前から行われてきている。例えば、宿を考えてみても、ホテルや旅館も、その部屋を、年間通していろいろな人に使ってもらっている。つまりその部屋を多くの人にシェアしてもらっている。車についても、レンタカーのように車を好きなときに借りて使うサービスや、タクシーのように、乗りたいときに乗るサービスなどは、同様に車を多くの人にシェアしてもらっている。

最近のシェアリング・エコノミーと、これまでの「何かをシェアして使う」サービスの違いは、「誰が資産を保有しているか」だ。たとえばホテルや旅館は、それぞれ保有する会社組織があり、そこがすべてを管理し、旅行者に使ってもらっている。車の場合も、レンタカー会社やタクシー会社が車を保有し、ユーザーに使ってもらっている。これに対し、最近のシェアリング・エコノミーでは、仲介者は資産そのものは持たず、個人が保有する遊休資産を仲介しているだけ、というところが、以前からあったシェアリングと大きく異なっているところだ。

では、なぜこれまでは、このような「個人が保有する遊休資産」をシェアできなかったのか。もちろん親しい友人間などでの物の貸し借りは以前からあった。しかし、問題は「遊休資産」を持っている人がどこにいるのか、そしてそれを使いたい人がどこにいるのかを見つけることが、簡単ではなかった。それが、インターネットの出現により、お互いを見つけやすくなった、ということだ。

シェアリング・エコノミーとは多少異なるが、物を売りたい人と買いたい人を結びつけるオークション・サイトや、アパートの賃貸物件、不動産の売買情報などを提供するウェブサイトは、すでに「売りたい人、貸したい人」と「買いたい人、借りたい人」をインターネットで結びつけている。この貸し借りが、部屋でいえば月や年単位ではなく、日単位に、車で言えば、必要なそのときにオンデマンドで探すことができるようになった、ということだ。

こう考えると、インターネットが広まり始めてから、このようなサービスが出現するまでに、むしろ時間がかかり過ぎているようにも思えてくる。Airbnbの場合は、個人が家または部屋を1日単位で貸す、という考え方にたどり着くまでに時間がかかった、ということかもしれない。Uberの場合は、そもそもタクシー業者などでない個人が、このようなサービスを提供していいものかどうか、という点が問題だったのかもしれない。

いずれの場合も、ホテルや旅館が旅館業法等の規制を受け、タクシー会社等も、道路運送法等の規制を受けているということで、AirbnbやUberのように、個人のサービスを仲介することは、許されないのではないか、と考える人が多かった可能性は高い。実際、どちらのサービスも、このような既存の規制に影響を受け、ビジネスを制限されたり、一部禁止されたりしている。Uberについては、2015年8月のコラム「Uber是か非か」にも書いたとおりだ。また、知らない個人の家に泊まったり、知らない個人の車に乗ることに不安を感じ、そのようなサービスは広がらないのではないか、と思ったのかもしれない。

にもかかわらず、AirbnbやUberのサービスが世界で急拡大していったのは何故か。それは、彼らの始めたサービスが、消費者にとって、とても便利なものだったからだ。Airbnbの場合、場所にもよるが、宿のホストの人との会話が楽しめたり、価格もホテルや旅館などに泊まるよりも安い場合が多い。また、ホテルや旅館がほとんどないような場所にあって、便利なことも多い。そして、宿の評判も、ユーザーのコメントなどから、ある程度判断することができる。

Uberの場合、特に米国では、都市によっては、タクシーの数よりUberのドライバー数が多いので、呼んだらすぐに来てくれる確率が、タクシーを呼ぶ場合より高いし、Uberで呼んだ車が、いまどこにいて、あとどれくらいで到着するかがわかることも、高い評価を受けている。スマートフォンで簡単にUberの車を呼ぶこともできるし、支払いは事前に登録したクレジットカードにチャージされるので、お金を持っている必要もない。

このように広まったAirbnbやUberだが、当然、既存企業のホテルや旅館、タクシー業界などは、自分たちが規制下にあるにもかかわらず、AirbnbやUberがその規制にかからないのは不公平と、反対を唱えている。法律は、それぞれの国や市町村などで異なり、AirbnbやUberも基本的に何らかの法律に従う必要があるが、ときにはそのすべてを事前にクリアせず、ビジネスを開始して、その後問題が発生したら法律の変更を求める、あるいはビジネスのやり方を変更する、という方法をとっている場合もある。特にUberはそのような形でビジネス展開していることが多く、世界各地で法的な係争にかかわっている。実際、日本やヨーロッパでは、米国の各都市で可能な一般ドライバーによるサービス提供が禁止されている。米国内でも、テキサス州オースチン市では、住民の反対により、Uberによるサービスは中止に追い込まれている。

既存企業のビジネスへの影響も少なくない。実際、今年はじめには、サンフランシスコの大手タクシー業者イエローキャブが会社更生法申請にいたっている。このような新しいサービスに対し、米国では、多くの場合、既存ビジネスへの影響に配慮しながらも、新しいやり方に比較的に寛容で、消費者にとって便利なサービス提供が行えるよう、新しいビジネス・イノベーションを許す方向に動く傾向にある。既存企業も、これに負けないよう、新たなサービス展開を考えるなど、競争原理に基づいた対応を行う。その結果、消費者は、より競争の激しい市場で勝ち残った会社の、よりよいサービスを受けられることになり、遊休資産の有効活用という社会全体のメリットも大きい。

これに対し、日本は既存業界の保護に軸足を置く場合が多いように見える。シェアリング・エコノミーに限らず、多くの場合、日本はこのような傾向が強い。そのため、インターネットのような新しい技術を使った、新しいビジネスのやり方が広まるのに時間がかかる。その結果、消費者は、その恩恵を享受することが、なかなかできない。

既存企業にとって不公平があってはならない、ということは確かだが、ビジネスに競争はつきもの。その競争環境が、インターネットという大きな技術イノベーションをもとに、多くのビジネス・イノベーションによって、大きく変化してきている。既存企業も、これまでの規制を盾に既得利益を守ろうとするのではなく、積極的に自分たちも新しいビジネス・イノベーションを起こし、新たな競争に立ち向かう必要がある。そのようにすれば、消費者にとっても、便利な世の中が早く来る。

新しいシェアリング・エコノミーによって、既存企業の競争環境が厳しくなったことは間違いないが、ホテルや旅館は、その立地、設備、食事、そしておもてなしなどで差別化が十分可能なはずだ。シェアリング・エコノミーと既存企業の共存は、そんなところから生まれてくるのではないだろうか。

  黒田 豊


(2016年7月)

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