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Googleの本格参入でホットなパーソナル・アシスタント市場

5月18-20日の間、Googleの開発者向けイベント、Google I/Oが開催された。今回は10回目になる。これまで、サンフランシスコ市内のMoscone Centerで行っていたが、今年はGoogle本社のあるMountain View市の屋外会場、Shoreline Amphitheaterで行われ、会場への参加者も7000人を超えるものとなった。

Google I/Oでは、新しい製品などの発表が行われ、今回も新しいAndroid N、開発環境のFirebase、AIのなかでもGoogleが力を入れているMachine Learningの進化したDeep Learningの応用分野などに話が及んだが、私が注目したのは、パーソナル・アシスタントのGoogle Assistantだ。

パーソナル・アシスタントといえば、その本格的なものを最初に出した大手企業はAppleだ。AppleがSiriを出したのは、2011年10月のiPhone 4Sのときだから、すでに4年半前のことだ。SiriそのものはSRI Internationalのスピンオフ会社として設立され、2010年はじめに、SiriをiPhoneアプリとして発表した。そのSiri社をAppleが買収し、Appleの製品として出したものだ。

その当時から、Googleをはじめ、何社かがパーソナル・アシスタントを近々発表する、と言っていたが、その後、しばらくはSiriと同等のものは世の中に出てこなかった。Googleは、2012年9月にGoogle Nowを発表したが、これは、音声入力を使った自然言語によるサーチを可能にしたが、サーチの延長という色が濃く、パーソナル・アシスタントと呼ぶには、十分ではなかった。Microsoftは2015年1月にCortanaを、また、Amazonが2014年末にプライム・メンバー向けに発表し、その後2015年半ばに一般への販売を開始したホーム・オートメーション用のAmazon Echo(その中で使われているパーソナル・アシスタントはAmazon Alexa)など、世の中にパーソナル・アシスタントが出てきている。

そこに、いよいよGoogleが本格的なパーソナル・アシスタントのGoogle Assistantを、今回出してきた。まだ製品としての出荷はこれからなので、ユーザーの評判がどのようなものになるかわからないが、Google I/Oでのデモを見る限り、少なくともSiriと同等、もしくはそれをしのぐもののように見える。

Google Assistantが組み込まれる製品は2つ、Google AlloとGoogle Homeだ。Alloはメッセージング・アプリで、AppleのSiriなどと対抗して、スマートフォンなどで使われる。AppleのSiriがiOSに組み込まれているのと異なり、アプリを起動する必要があるが、その代わり、GoogleのAndroidベースのスマートフォンだけでなく、Appleのものでも動く。Alloは、メッセージング・アプリとして、他にもいろいろな機能を搭載して、この夏出荷される予定で、単にGoogle Assistantを広めるだけでなく、ホットなメッセージング・アプリ市場で、Androidだけでなく、Appleも含めた市場に広げようという戦略だ。

もう一つのGoogle Homeは、明らかにAmazon Echo対抗のホーム・オートメーション、ホーム・エンターテイメント向け製品だ。Amazon Echoは、これまでのSiriやCortanaのようにスマートフォン、タブレット、パソコンなどで使うものではなく、家に置く、一見置物のようなデバイスで、価格が$179.99。機能的にはパーソナル・アシスタントと呼ぶには、少々物足りないものの、音楽を聴いたり、ニュースや天気予報を聞いたり、部屋の電気のオンオフなど、いろいろなホーム・オートメーション機能を、音声入力によって実現するという意味で、おもしろい製品だ。AmazonがEchoを発表したとき、それがヒットすると思った人は少なかったが、ふたを開けてみると、すでに今年3月末までに300万ユーザーをかかえる、予想以上のヒット商品となっており、ホームでの中核製品になりかねない勢いだ。これにGoogleも対抗しようというものだ。

Amazonの強みは、この種の製品として初めてのものを世に出したという先行者利益、そして、オープンなシステムとして、多くのサードパーティを巻き込み、次々とEchoで使えるアプリケーションを増やしていることだ。これに対し、Googleの強味は、強力な自社のサーチエンジンとの連携、そして、AIの強味を発揮した、今回のGoogle Assistantの組込みだ。

パーソナル・アシスタントが市場でこれから大きな役割を果たすだろうことは、Siriが世の中に出たころから言われていたことだ。これまで、ユーザーがインターネット上で何かの情報を探す、そしてそれをもとに購買などの行動を起こす場合、Googleなどのサーチエンジンを使う場合が多かった。しかし、サーチは、あくまでキーワードをベースにしており、どんな趣味嗜好を持った人が、どんな状況において情報を探しているか、ということをあまり考慮に入れていない(Googleは、最近サーチしたもの、サーチする人の居場所などは考慮に入れて結果を出してくるので、ある程度パーソナル化してはいる)。

そのため、自分の求めている情報がすぐ手に入るとは限らない。また、その情報をもとに購買などする場合、次のステップを自分で行う必要がある。この不便さを解決するのが、パーソナル・アシスタントだ。パーソナル・アシスタントは、その人の趣味嗜好などの情報を持ち、問い合わせを、どんな文脈の中で行っているか、理解してくれる。たとえば、最初に何か質問し、次に「彼の作品は。。」などと聞くと、その彼が誰のことか、わかってくれる。そして、サーチにとどまらず、次のステップである購買、予約などまで一度にやってくれる。また、こちらから何か問い合わせなくても、外部からのトリガー、たとえばEメールの受信や時間設定によって、こちらに何かを知らせてくれる。要は個人秘書(パーソナル・アシスタント)ということだ。そして、そのやりとりは、会話型であることも、大きな特徴の一つだ。

ユーザーが直接サーチエンジンを使っていると、ユーザーのやりたいことは、サーチエンジンで集めることができる。その情報をもとに、ターゲット広告などを出すことが可能となる。Googleの3行広告は(今年に入り、なくなってしまったが)、まさしくユーザーの探している情報、つまりキーワードをもとに作られたターゲット広告だった。それが、パーソナル・アシスタントをユーザーが使い始めると、サーチエンジンは、その下で使われることになり、パーソナル・アシスタントは、ユーザーの趣味嗜好、さらにサーチだけでなく、購買や予約など、具体的に実行したいこともわかるので、その情報をベースに、より詳細なターゲット広告を出すことができる。また、購買や予約につながる場合、そのビジネスの手伝いをしているので、セールスの一部をコミッションとしてもらうことも出来る。

それだけに、パーソナル・アシスタントが普及すると、Googleのサーチエンジンをベースにしたビジネスに大きな影響を及ぼしかねない。そのため、Googleがこの分野で何か出してくることは、当然のことと予想されていた。しかし、Siriが出てから4年半かかってしまった。Googleにとって幸いなのは、その間、AppleがSiriをあまり進化させなかったことだろう。AppleでSiriのよさを一番よくわかっていたのは、Steve Jobsだが、その彼が世を去り、その後AppleでSiriのことがよくわかっている人が、存在しなかったのではないかと想像される。

もともと私のSRI時代の友人で、Siri創設者のひとり、技術系トップのAdam Cheyerは、数年前にAppleを去り、以前のSiri社長とともに、新しいベンチャーのVivを立ち上げ、どんなプラットフォームでも使えるパーソナル・アシスタントを開発している。そして、この5月はじめには、開発中の製品のデモをニューヨークで見せるまでになった。デモを見る限り、他社をしのぐ最も進んだパーソナル・アシスタントに見えるとの評判もある。

Appleは、今回のGoogle I/Oと同様の、開発者向けイベントApple WWDCを6月中旬に控えている。AppleがSiriをより進化させたものを出せるか、またAmazon EchoやGoogle Homeに対抗するようなホーム・システムを発表してくるか。この先、パーソナル・アシスタント市場から目が離せない。

  黒田 豊


(2016年6月)

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