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世界展開するNetflix

Netflixをご存知の方も多いと思う。はじめて聞く人のために簡単に説明すると、インターネット経由でテレビ番組や映画などをビデオ配信するサービスだ。日本でも昨年秋からサービスが開始された。基本サービスであれば、月7.99ドル(日本ではベーシックが月650年、スタンダードが月950円)で契約すれば、Netflixの保有するビデオは見放題だ。4つの番組を同時に、そしてUltra HDでのサービスを受けるものでも月11.99ドル(日本ではプレミアムが月1450円)なので、米国ではケーブルテレビなどと契約するのに比べ、かなり割安感がある。

インターネットに接続されたパソコン、タブレット、スマートフォンなどから見ることができる。さらにテレビ画面でも、インターネット接続可能なテレビや、Sony、Nintendo、Microsoftなどのゲーム機、インターネットとテレビをつなげるApple TV、Roku、Google Chromecast、Amazon Fire TVなどを経由して見ることができる。Netflixは1997年設立だが、最初はDVDレンタルから始まり、インターネット・ビデオ配信を始めたのは2007年。その後、どんどん拡張し、今では全米でユーザー数4300万、世界でユーザー数7500万を越えるサービスだ。

そのNetflixが今回また注目されたのは、年初にラスベガスで行われるConsumer Electronics Show (CES) でキーノート・スピーカーの一人に社長のHastingsが選ばれ、その場で、それまで世界60ヶ国で提供していたサービスを、一気に130ヶ国増やし、190カ国でサービスを提供し始めた、と発表したからだ。そして、2016年末までにNetflixのサービスを世界200ヶ国に広げる予定という。これによって、世界中の人達が、いつでもどこでも自分の持っている好きなデバイスで、Netflixのもつテレビ番組や映画などのビデオ・コンテンツを見ることができる。Hastingsの言葉を借りれば、「グローバル・インターネットTVネットワーク」の始まりだ。

CESといえば、もともと家電見本市だが、最近はコンピューター関連やインターネット関連のものなどにも大きく幅を広げている。テレビなどが主役ではあるものの、最近はIoT (Internet of Things: もののインターネット)の広がりとともに、自動車、ウェアラブル機器なども多く出展されている。それでも、インターネット経由のビデオサービスのようなものは、あまりCESで見た記憶がない。昨年、衛星放送会社のDISHがCESでインターネット・ビデオ配信サービスのSling TVを発表したのが、思い浮かぶ程度だ。CESのキーノート・スピーカーといえば、これまで、Sony、Panasonic、Samsung、Microsoft、Fordなどの既存大手企業が名前を連ねる中に、新興のNetflixが入ってきた。

Netflixについて、本コラムで最初に書いたのは、2012年6月のことだ。この時期、Netflixは、ある意味、分岐点に立っていた。サービス開始以来急上昇していた株価は、DVDレンタル・サービス中止発表(その後、撤回)と、ビデオ配信サービスの競争激化のため、一時ピーク時の1/5にまで落ちてしまった。競合では、Netflixのインターネット・ビデオ配信での成功を見て、通信販売大手のAmazon、通信サービス大手のVerizon、ケーブルテレビ大手のComcast、小売大手WalMartのVuduサービス、テレビ番組中心から映画コンテンツも増やしているHulu、DISHのSling TV、SonyのPlayStation Vueなど、大手企業が次々と市場参入してきた。このため、私も、Netflixはこのような大手のどこかに飲み込まれてしまうのではないか、と懸念していた。

そのとき、Netflixが取った戦略は2つ。ひとつは海外展開。もうひとつは、オリジナル・コンテンツの番組を制作することだ。海外展開には準備の時間と投資が必要で、その戦略を批判する人たちも少なくなかった。また、オリジナル・コンテンツ制作にもかなりの投資が必要だし、この2つの大きな投資を同時にすることが適切かどうか、市場に不安が広がった。

それでもNetflixはその戦略を信じ、海外展開とオリジナル・コンテンツ制作に突き進んでいった。その結果、2012年第1四半期は海外展開のための大きな投資をしたため、わずかながら赤字となり、2012年全体では、利益が2011年の1/10以下になるなど、その影響は少なくなかった。しかし、その間、売上は順調に伸び、海外ビジネスの赤字が続く中、利益も2014年には2011年の水準を超えるまでに戻ってきた。そして、一時低迷して$62.37になっていた株価も、2015年の7対1の株式分割時には、その10倍以上の$700にせまり、現在は$104(株式分割前でいえば$728)まで上昇している。

海外展開では、しばらくは進出する国の数を制限しながら、ゆっくり展開していき、日本への進出も時間はかかったが、昨年秋に、ようやくサービス開始にこぎつけた。オリジナル・コンテンツもどんどん充実させ、すでに50以上の番組や映画、時間にして600時間以上のコンテンツが、Netflix以外では見られないものだ。それも、有名な俳優を使うなど、資金も十分に投入し、テレビ界のアカデミー賞と言われるエミー賞も、2013年に「House of Cards」で3つの賞を取り、その後、2014年、2015年と、続けていくつもの賞を取っている。2015年には、日本でもさっそく吉本興業と組み、芥川賞受賞作、又吉直樹原作「火花」のドラマ映画製作が決まり、すでにクランクインしている。

Netflixが大手競合が次々市場参入する中で、これまで先頭を走り続けているのは、いくつか理由がある。ひとつには、新規参入組は、まず消費者が見慣れている大手テレビ局の番組をそろえる必要があるが、これがなかなか出来ていない。テレビ局側も、Netflixが広げたインターネット・ビデオ配信ビジネスが大きくなるにつれ、その卸価格をどんどん上げている模様だ。このため、テレビ番組のビデオ配信サービスをはじめようとしたIntelは、そのサービスの発表までしておきながら、中止してその部門を大手電話会社のVerizonに売却したし、Appleも、いまだサービスを開始できていない。また、DISHのSling TVや、SonyのPlayStation Vueも、見ることができるテレビ番組は、まだ限られたものとなっている。

また、Netflixが独自に作成しているオリジナル・コンテンツの高い評判も、Netflixが勝ち続けている要因だ。オリジナル・コンテンツを製作するときには、これまでに持っている、どんな人がどんなコンテンツを好むかの大量の情報をビッグデータ分析し、作品が当たる確率を高くしていることも大きい。そして、たとえば10回シリーズのものを製作した場合、一度に10回分をリリースする、というインターネット・ビデオ配信ならではの方法を用いたことだ。これにより、視聴者は、1回ずつ見ることもできるし、何回かまとめて見ることもできる。このBinge viewingという方法を確立し、これがまた、視聴者に人気を得た。

もう一つは、多くのNetlixユーザーに高い評価を得ている、独自の「Recommendation(おすすめ)」サービスだ。ユーザーのこれまで見たコンテンツをもとに、そして、すべてのNetflixユーザーの傾向データから、そのユーザーが興味を持ちそうなコンテンツを推薦する。この「おすすめ」を利用している、という人は、実に75%と言われており、これがユーザーをNetflixに引き止めている大きな要因の一つとなっている。

世界中にサービスが広がったNetflix。これにより、いろいろな国で製作されたビデオ・コンテンツが、多数の国で視聴することが出来るようになる。ユーザーは、いつでも、どこでも、どんなデバイスからでも、ビデオコンテンツを見ることができる。それも、自分の見ていたものの続きを、そのまま続けてみることができる。テレビ局などが持っているコンテンツは、それぞれ独自に各国に販売している場合も多いので、すべてのコンテンツがすべての国で見られる、ということには、すぐにはならないが、少なくともNetflixが独自製作したコンテンツについては、世界で同時に見られることになる。テレビの新しい世界に、一歩近づいたことは、間違いない。

  黒田 豊


(2016年2月)

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