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クラウド・ファンディングの幅広い使い道

クラウド・ファンディングという言葉を聞いたことのある人も、最近は多いのではないかと思う。初めての人のために簡単に説明すると、クラウド(crowd)、つまり不特定多数の人たちから、ファンディング(funding)、出資してもらうことだ。これまで、個人や小規模ビジネスが、何か新しいことをはじめるとき、あるいはビジネスそのものを立ち上げるための資金調達に使われてきた。

基本的にウェブサイトでいろいろなプロジェクトが紹介され、それに興味を持った人たちが出資する。出資者は、製品や作品が完成したあかつきには、それを優先的に割引価格で購入できるなど、なんらかの特典が得られる場合が多い。米国では、2012年に新しい法律ができ、このような形での出資者が、その会社の持ち主の一部になることも可能になっている。

現在、このようなクラウド・ファンディングを主催するウェブサイトは1,000にもおよぶが、最大規模を誇るKickstarterは、2009年に開始以来、9万以上のプロジェクトが900万人以上から出資を得ており、総額は20億ドル(約2400億円)を超えている。このサイトは、主に何かをクリエイトする人たち向けで、アーチスト、音楽家、デザイナー、等が出資を求める場合も多いが、新しい製品を開発するための出資を求めるものも少なくない。

有名なものとしては、Apple Watchが世の中に出てくる前に、スマートウォッチとして登場したPebbleがある。Kickstarterを使い、この会社は1千万ドル(約12億円)もの出資を、このクラウド・ファンディングを使って集めることができ、無事製品開発にこぎつけた。また、Kickstarterの次を行くクラウド・ファンディング大手のIndiegogoでは、最近日本のソフトバンクが販売開始したペッパーと同様の、人と会話するソーシャル・ロボットのJiboが、371万ドル(約4億4520万円)を集め、注目された。

さて、このように何かを個人や小規模ビジネスが始めるときに、そのお金を集めるためにはじまったクラウド・ファンディングだが、最近は、それだけではないクラウド・ファンディングの使われ方が広がってきている。それは、クラウド・ファンディングに興味を持つ人たちが増え、そこで話題になると、それがそのままマーケティングや広告としての役割を果たしてくれることがわかってきたからだ。また、未完成の製品を提案し、それに対する市場の反応を見ることにも、クラウド・ファンディングを役立てることができる。

さらに、会社が社会貢献に力を入れていることを宣伝し、ブランド・イメージを向上させたりと、その使われ方は多様になってきた。こうなってくると、これは個人や小規模ビジネスだけのためではなく、大企業を含む既存企業にとっても、いろいろな使い道のあるツールということができ、実際、多くの大企業が色々な形でクラウド・ファンディングを使うようになってきた。

たとえば、車メーカーのクライスラーは、自社が支援金を出し、車を皆で誰かに買ってあげるためのクラウド・ファンディングを行った。結婚祝いに皆からお金を集めて、車を送ろう、というように。このプロジェクトで売れた車の台数は、それほどでもなかったようだが、このことがうわさとして広がり、その車の知名度を上げることには、かなり貢献したようだ。その結果、このキャンペーンの翌年には、その車の売上が2倍以上になったという。

また、社会貢献にクラウド・ファンディングを使う例としては、コカコーラがある。メキシコの工場で水を使い過ぎている、という批判をかわすため、メキシコで井戸を掘るための資金集めにクラウド・ファンディングを使い、さらに自社もそれにお金を寄付する、というものだ。これにより、コカコーラは、水を使い過ぎるという批判から、水の供給に貢献する会社というイメージ作りに成功している。

別な例では、テレビのシリーズとして、あまり成功しなかったが、根強いファンも結構多くいた番組を映画化しようという試みに対し、本当にそれが売れるかどうか、その人気度を見るためにクラウド・ファンディングが使われたこともある。集める目標額は200万ドル(約2億4000万円)。この高い目標は、なんと開始わずか12時間で達成してしまい、最終的には570万ドル(6億8400万円)を達成。出資者数は9万人を超えた。これだけ集まっても、映画の製作費用すべてをまかなうことはできないが、映画会社ワーナーブラザーズをその気にさせることは十分で、その後無事、その映画は制作されることとなった。

さらに、大手企業が市場に製品を投入する前に、市場をテストするためにクラウド・ファンディングを使う場合もある。ある製品を市場投入する前に、テスト的に使ってもらって、その市場性を見ることは、よくあることだが、通常のアンケート調査やフォーカス・グループといわれる一部の人に評価してもらうやり方では、その結果に偏りが生じかねない。また、調査される側も、お金をもらったり、景品をもらったりして調査に答える場合も多く、必ずしも批判的な意見などが、そのまま出てくるとは限らない。

これに対し、クラウド・ファンディングは、お金を出してもらう、ということなので、出資者側も、本当に魅力があると思わなければ、出資しない。そういう意味で、その製品の本当の価値を評価してもらうことにもなる。ソニー、その他の会社が、このようなやり方で、発表前の製品の市場テストに、クラウド・ファンディングを使い始めている。また、製品の市場テストの続きとして、そのまま製品の予約販売に結びつけることもある。

クラウド・ファンディングに似た考え方のものに、クラウド・ソーシングというものもある。これは、お金(ファンド)に限らず、不特定多数から、いろいろな意見等を取り入れるもので、より広い意味を持つ言葉だ。製品開発においても、このクラウド・ソーシングを使い、新製品のアイディアを、一般消費者から募集するものもある。これにクラウド・ファンディングを組み合わせ、一般消費者から出てきたアイディアの製品開発に、今度はクラウド・ファンディングの形で資金募集し、一般消費者から出てきたアイディアのうち、どれが人気があるかを判断し、最終的に製品開発につなげるかを決定することもある。

このように見てくると、もはや名前はクラウド・ファンディングといっても、出資を仰ぐだけのためではなく、マーケティング、広告宣伝、市場テスト、さらには社会貢献、会社のイメージ向上にもつながる、幅広い用途のインターネットの新しいツールとしてのクラウド・ファンディングが見えてくる。名前だけでその内容を判断するのではなく、どんなことができる仕組みか、常に一歩深く見てみないと、その本質を見落とす可能性がある。クラウド・ファンディングは、そのいい例かもしれない。

  黒田 豊


(2015年11月)

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