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新しいApple TVでテレビは変わるか?

9月9日、恒例となっている、Apple秋の新製品発表イベントが行われた。春に発売が開始されたApple Watchの品揃え追加とOSの機能アップ、主にビジネス向けでパソコンの代わりにもなりそうな新しい大型画面のiPad Pro、そして機能拡張とともに新たな3D Touch機能を加えた新型iPhone 6sと6s Plusと、いろいろあったが、私が注目したのは、新しいApple TVだ。

ここ数年、Appleからの新しい製品として期待されていたスマート・ウォッチとスマート・テレビ。Apple Watchは昨年発表され、今年春から出荷がはじまり、いよいよ次はテレビだ。数年前のうわさでは、新しいテレビ受像機そのものを発表するのではないかと言われていたが、その後その話はほぼなくなり、これまで販売していたApple TVを作り直したものになるだろう、というのが、もっぱらのうわさだった。そして、今回発表されたものは、うわさどおりApple TVを作り直したものだった。

Appleは、この新しいApple TVを、未来のテレビ、Future of TVと呼び、それはアプリによるテレビ、という表現をしている。これまでのApple TVは、以前Steve Jobsが「おもちゃ」と言い、インターネット経由のビデオ・ストリーミングをテレビ画面に出す、比較的簡単な機能だった。それでも一時は、その分野で市場のトップシェアを持っていたこともあったが、最近はRoku、Google、Amazonなどが、安価にインターネットからのビデオをテレビ画面に出すデバイスを販売しており、市場での強みは特になくなっていた。実際、Apple TVは、ここ数年、ほとんど機能拡張もされていなかった。

そして、満を持して出してきたのが、今回の新しいApple TVだ。その特徴は、なんと行っても、Appleの真骨頂である「使いやすいユーザー・エクスペリエンス」だ。それを実現するために用意したのは、専用のリモートデバイスと、iPhoneなどでおなじみの音声入力で使えるパーソナル・アシスタントSiriのApple TVへの組込みだ。

リモートデバイスでは、すでにユーザーがiPhoneやiPadで使い慣れているタッチパネルを装備し、一般のテレビのリモート・コントローラーなどと違い、タッチによって画面操作が簡単にできるようになった。さらに、加速度センサーやジャイロセンサーを持たせ、ゲームのコントローラーとしての機能も備えている。Appleは、Apple TVをゲーム用にも本格的に使ってもらおうという意思が明確だ。発表イベントでも、Apple TVを使ったゲームをいくつか紹介するなど、ゲーム市場への本格参入の意図がうかがえる。

すでにSony PlayStationやNintendo、Microsoft Xboxなどのゲーム機は、インターネット接続して、ビデオをテレビ画面で見ることができるようにしており、単なるゲーム機ではなく、インターネット経由のビデオ・ストリーミング用セットトップ・ボックス(STB)としての役割も果たしている。この2つの市場は、すでにオーバーラップしており、そこにAppleが新しいApple TVで本格参入してきた、ということだ。

Siriによる音声でのコンテンツ・サーチは、デモを見る限り、かなり便利に見える。たとえば、映画007(ジェームスボンド)の映画を探してほしい、といえば、それを見つけてくれ、さらにその中で、ジェームス・ボンド役を俳優のショーンコネリーが演じているものを選んでほしい、といえば、それを探してくれる。探すのも、どこか1ヶ所のビデオサービスだけでなく、自分が契約しているすべてのところから探してくれるようだ。

ただ、これはあくまでも、台本のあるデモでうまく動き、よく見えている、ということなので、本当にこのようにうまくいくかどうかは、何とも言えない。Siriがどこまで自然言語の表現を理解し、異なる発音を理解してくれるかは、実際に使ってみないとわからない。ビデオコンテンツを探すだけでなく、その場で、ニューヨークの天気を教えてほしい、と言えばテレビ画面に出してくれるようで、うまく機能すれば、使い勝手のいいものになる可能性はある。

イベントでのデモを見ると、その使いやすさがうまく強調されているが、それは、あくまでもインターネット経由で得られるビデオ・コンテンツに対して、あるいは、インターネット経由で楽しめるゲームのようなものに対してだ。今回のApple TVが、これまでのおもちゃのようなものではない、と言っても、通常のテレビ放送も、そのまま見られるようになった、というわけではない。

Appleの言う、アプリによるテレビ、という考え方は、インターネットを使ったテレビ番組のストリーミング、別な言い方でOTT(Over The Top)と言われる世界では、すでに言われてきたことで、特別Appleが初めて言い出したことではない。Appleを含め、OTTに関わる人たちは、テレビのチャンネルという概念から、見るものはアプリで選ぶ、という方向に進むだろうと見ている。私もすでに何回か、インターネット・ビデオ・ストリーミングに関してコラムで書いているが、同じように考えている。

しかし、現実はまだそこまで行っていない。それは、テレビ局などが、これまでのケーブルテレビ、衛星放送、光通信などを経由した有料番組配信のビジネスモデルから、新しいビジネスモデルに変換していないからだ。彼らも、将来はアプリによるテレビ的な世界が来ることは予想しているが、今のビジネスモデルでの利益を確保しながら、どのように新しいビジネスモデルに移行するかを模索しているところだ。そのため、インターネット経由の仮想ケーブルテレビ的なサービスを提供しようとするところは、これまでもいくつか出てきているが、まだすべてのチャンネルの放送を可能にしているところは出てきていない。

Appleも、同様のサービスを提供しようと、数年前からテレビ局等と交渉している模様だが、まだ交渉は成立していないようで、今年中とうわさされていたAppleのこのようなサービスも、来年に持ち越されそうだ。それでも、イベントのデモにあったような、大リーグ野球(MLB)などは、テレビ局経由での野球放送以外にも、独自にインターネット経由でコンテンツ配信しており、今回、Apple TVでもインタラクティブな操作が行えるような仕組みを作っている。

また、今年春に発表されたように、エンターテイメント大手テレビ局のHBOは、ケーブルテレビ等の有料放送と契約していなくても、直接HBOと契約してインターネットによるビデオ・ストリーミングで、番組をテレビ放送と同時に見ることができるようにしており、最初にそれを実現したのはApple TVだ。これは、まさしくAppleやOTT関連企業の人達が考えている、アプリによるテレビ実現の第一歩だ。

長年変わっていなかったテレビが変革するには、使いやすいユーザー・エクスペリエンスが必須だ。コンテンツの面では、まだこれからだが、Apple TVは、その面では、新しい大きな一歩を踏み出したといえる。Apple TVの価格は、他社のビデオ・ストリーミング用デバイスに比べ2-3倍と高価だが、ユーザーがAppleの使いやすさを求めて、どこまで新しいApple TVを買い求めるか、年末商戦に向けて、注目したい。

  黒田 豊


(2015年10月)

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