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Uber是か非か

日本では、まだほとんど普及していないので、一部IT関連の先進的な動きを見ている人や、新聞をよく読んでいる人しかしらないかもしれないが、米国、そして世界で急激に広まっている、Uberというサービスがある。私の住んでいる、サンフランシスコ・ベイエリアに住む人々の中には、Uberを使ったことがある、あるいはよく使っている人もいるので、このようなタイトルにすると、その人たちには、「今さら何を」と言われるかもしれない。Uberのことを初めて聞く人のために簡単に説明すると、タクシーのようなサービスを、スマートフォンから依頼できるサービス、とでも言えばいいだろうか。ただし、タクシーのように市などから正式な認可をもらったものではないサービスだ。

この、市などから正式な認可をもらったものではない、というところから、Uber是か非か、という話が出てくる。Uber以外にも類似したサービスに、Lyft、Sidecarなどがある。タクシー業者は、当然Uberのようなサービスは、自分達のビジネスにとって百害あって一利なしなので、各地で反対運動を広めている。市などの行政当局も、このような新しいサービスに対する明確な法律がないため、とまどっているが、サービスの安全性や現行法との関連で、反対するところも少なくない。

それでもUberは、そのサービスを最初にサンフランシスコで始めてから6年目で、すでに世界50カ国以上、270都市以上にまで広がっている。これは、ユーザーにとって、スマートフォンを使い、その場所に一番近いUberの車を手配してくれる、支払いも登録済みのクレジットカードでOK、ピックアップしてもらうための場所も、スマートフォンのGPS機能を使うため、タクシーなどを呼ぶ場合に必要となる場所の説明なども不要と、とても便利なものだからだ。料金はリクエストする車の種類、場所や時間により異なるが、タクシーより安い場合も少なくない。このようなユーザーにとっての便利さから、わずか数年でUberは一気に世界に拡大していった。

ある調査によると、サンフランシスコではUberのようなサービスを使った人が71%、タクシーを使った人が29%という驚くべき数字が出ている。サンフランシスコだけでなく、ロサンゼルス、ワシントンD.C.などでも、約半数がUber等を使ったとの調査結果だ。ニューヨーク市では、タクシーの数よりも、Uberに登録している車の数のほうがすでに上回っている。その結果、Uberは実質売上(総売上から運転手へ支払った金額を除いた額)で、2014年に$2bil.まで達している。このような急激な成長を見て、Uberへの資金投資も活発で、今年はじめに集めた$1bil.によって、会社価値は$41.2bil.になったとのことだ。この$1bil.という投資額は、今年第1四半期のシリコンバレーでの投資の実に17%になるとのことで、Uber一社だけで、たくさんの資金を集めてしまっていることになる。実は今年だけでなく、昨年第4四半期にUberに投資された$1.8bil.は、その四半期のシリコンバレーでのベンチャー投資の28%近くになる、驚異的な資金の集め方だ。このように多額の資金を集めるには、通常株式上場をする必要があるが、Uberの場合、上場せずにこのような大量の資金を集めたことになり、業界では「半上場企業」(quasi-public company)という言われ方もしている。

さて、このように一見順調に見えるUberのビジネスだが、タクシー業界や市など行政当局の目が次第に厳しくなってきた。その発端となったのは、インドでUberの運転手に女性客がレイプされる、という事件だ。これにより、Uberの安全性に大きな疑問符がついた。さらに、ヨーロッパでは、フランスやドイツなどでUberに反対するタクシー業界などの動きが活発になってきた。特にヨーロッパで展開している格安サービスのUberPopは、タクシーなど商用免許を持たない運転手によるサービスのため、現行法に違反しているとの指摘があり、フランスをはじめ、いくつかの国や都市でサービスに対する禁止命令が出された。

これまでのUberの戦略は、現行法に違反しているかどうかなどを確認せず、ともかく市場に参入し、問題が起こったら、その時点で対応する、というものだった。Uberの考え方は、そもそも現在の法律が古くて現実にそぐわないものとなっており、ヨーロッパではEUの憲法にも違反する、というもので、法律そのものを変えていく、あるいは、Uberのような新しいタイプのサービスには現行法を適用せず、別な法律を作って対応すべき、という立場だ。そのため、UberPop停止命令に対しても、無視してサービスを続けたりしていたが、ここにきて、フランスの警察によるUberのオフィス捜査と、現地マネジメントが法廷に立たされるという状況を踏まえ、ようやくサービスを一時停止し、当局に対しても柔軟な対応を示すようになってきた。

フランス、ドイツだけでなく、イタリアでもミラノ市がUberPopは違法との判決を出したり、スペイン、オランダでも同様の動きが起こっている。アジアでも各国がUberのサービスを問題視しているが、フィリピンは正式にUberのサービスを合法と認めている。日本ではUberは2012年に日本法人を立ち上げ、東京では、一部のハイヤー業者などと提携して、サービスを提供しているようだが、本格的な広がりにはいたっていない。今年はじめ、福岡市では九州大学と共同で実験をはじめたばかりだったが、それも国土交通省から白タク行為の恐れがあると、実験中止を指導されている。

タクシー業界や行政当局からの抵抗だけでなく、最近は別な問題も起こっている。それは、Uberの運転手から、自分達はコントラクターではなく、社員としての待遇を受けるべきだとの訴えが出て、これから裁判になろうとしている。また、Uberは誰がいつどこからどこまで乗ったかのデータをすべて集めており、これらの情報は市などに提供され、今後の道路計画などにも役立てられるが、その一方、プライバシーの問題も指摘さてれいる。

Uberもいよいよ正念場、という感もあるが、世界ではUberに似たサービスが次々と立ち上がっており、Uberとしても拡大の勢いをとめることはできない。これまでの、ともかく市場参入し、問題が起こったら対応する、という姿勢は基本的に変えていないようだが、当局と対決するばかりではなく、できるだけ法律に準拠し、正式に承認されたサービスをめざしている、というのが現在の姿だ。そのため、Uberはひとつひとつの州や市と議論を重ね、これまでのタクシーのための現行法をそのまま適応されるのではなく、新しい形のサービスとして認めてもらおうとしている。これにより米国では、すでに20以上の市や州で合法と認められている。そして、人の移動だけではなく、荷物を運ぶなど、新たなサービスも始めようとしている。

Uberの料金体系は、明朗ではあるが、混雑時などに超過料金を取るシステムとなっている。しかし、それがユーザーに法外な金額を請求することにならないよう、その超過料金に限度額を設定したり、また、車椅子でも乗れる車両を一定割合準備するなど、法律にそった現実的な対応を図っている。運転手のバックグラウンド・チェックについても、改善を検討している模様だ。

Uberのような新しい、特に現在の制度で明確に規定されていないものは、世の中を大きく揺るがす。そのため、既存企業は反発し、行政当局も右往左往する。しかし、このような新しい勢力が、多少乱暴なやり方でも、現在のシステムに風穴を開けることによって、新しいサービスが生まれ、長年不便だったものも便利になっていくことも事実だ。今のUberがそのままで認められることは難しいかもしれないし、ユーザーにとっても安全性等が十分確保されているか疑問という面もあるが、既存企業を含め、それぞれの立場を尊重しながら、最終的にはユーザーにとって便利なサービスが広がっていく、それができることが理想だろう。Uberのようなサービスについても、早くそれが実現してもらいたいものだ。

  黒田 豊


(2015年8月)

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