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再び話題に上ったAOL

皆さんはAOLという会社を知っているだろうか? 昔からインターネットやオンライン・サービスを使っている人たちで、この名前を知らない人はいないだろうが、最近の若い人たちは知らないかもしれない。知らない人たちのために簡単にどんな会社か説明すると、この会社はインターネットがまだ一般に利用されていない、1989年に、Quantum Computer Servicesという名前で設立され、1991年にAOL(正式名America Online)となり、オンライン・サービスという領域を作り上げた大手数社のひとつだ。その後、他社を買収するなどして、ピーク時には最大2000万以上のユーザーを持つようになった米国の会社だ。当時は、ネットワークに接続するのに電話回線を使い、ダイアルアップでそのサービスに接続したもので、Eメールが入ってくると、「You’ve got mail」という知らせが出るのが、流行語のようになり、今でも使われることがある。

日本ではパソコン通信などと呼ばれていたオンライン・サービスとは、そのメンバー間だけでEメールやディスカッションをしたり、情報が提供されるものだった。インターネットが世界中にオープンなネットワークであるのに対し、クローズなネットワークの世界を作っていた。しかし、その後、インターネットの普及で、オンライン・サービスもクローズな世界にとどまることができなくなり、クローズな世界で提供するものに加え、インターネットにも接続できるようになって、ある意味、インターネット接続プロバイダーのひとつと同様となった。

今でもたまに、Eメールアドレスで「.aol」という末尾を持っている人がいるが、この人たちは、このAOLのサービスを使っている人たちだ。AOLは1990年代に飛躍的に業績を伸ばし、インターネットの寵児などと言われ、大変注目された。最も注目されたのは、2000年に大手メディア会社Time Warnerとの$165 bilにも上る大規模合併だ。Time Warnerといえば、歴史のあるメディアの大手。それが会社設立10年そこそこのインターネット系の会社と大規模合併するということで、世の中大騒ぎとなった。いわゆるバブル崩壊前の、バブル絶頂期のことだ。

しかし、その後バブルははじけ、この大型合併は歴史的な大失敗といわれるまでになり、最後は2009年にTime WarnerがAOLを分離する、という形で終了した。AOLは再び単独の会社になったものの、もう忘れられた存在として、つい最近まで、多くの人の記憶から消えてしまっていた。ところが、つい最近、通信会社大手のVerizonがAOLを$4.4 bil.で買収するという発表があり、新聞等でも大きな話題となった。Time Warnerとの合併の規模から比べると小さな額だが、それでもAOLがまだ健在で、価値ある会社として生き伸びていたことを示したものだった。

では、多くの人から忘れられていたAOLが、2009年にTime Warnerから独立して以来、何をやってきたか。Googleからきた新社長のArmstrong氏がまず行ったことは、AOLをコンテンツを主軸に置く会社にすることだった。そこで、ベンチャーなどの新しい技術的な動きのニュースを提供するTechCrunchを2010年に買収。さらに2011年に短編ニュースで有名なHuffington Postを買収した。この2つの名前は、もしかすると若い人たちも知っており、親会社がAOLであるとは知らずに、実際見ているかもしれない。実はAOLは、これらのサービスにより、インターネット上のユニーク・ビジター数で、Google、Yahoo、Facebookにつぐ4位にまであがってきている。

しかしAOLは、ここではとどまらなかった。短編ニュースがインターネットで注目されるというのは、今起こっている大きなビデオ配信の流れのひとつに過ぎない。スマートフォンなどのモバイル端末の普及と、無線ネットワークの高速化で、ユーザーはモバイル端末で、いつでも、どこでも見たいビデオを見ることができるようになり、実際そうしている。今やネットワークにつなげて情報を見るのは、家やオフィスにあるパソコンよりも、モバイル端末が主流になってきた。そして、見るものも、静止画からビデオに大きくシフトしている。GoogleやFacebookもモバイルに大きくシフトし、また、ビデオ配信に力を入れている。この動きが、テレビ番組の見方も大きく変え始めていることは、何回かこのコラムでも書いている。いわゆる、モバイル・ビデオ配信の大きな流れだ。

さて、このようなモバイル・ビデオ配信の流れが加速すると、それをビジネスにするためにキーとなるのは、どのように広告を入れるかだ。もちろんビジネスモデルとして、ビデオ提供を有料サービスにすることも可能だが、GoogleやFacebookが無料で多くのビデオを提供している中、有料でコンテンツを配信できるのは、最近そのようなサービスを独自に始めたエンターテイメント・テレビのHBOや、人気のスポーツなど、すでに価値の高いコンテンツを持っている会社が中心だ。その他の多くは、無料配信し、広告収入に頼ることになる。

広告も、単に同じ広告をすべての人全員に送信するテレビ広告のようなものは、すでに古くなっている。今は見ている人の興味や趣味嗜好にあった、ターゲット広告が主流になろうとしている。最近、Facebookにしろ何にしろ、出てくる広告が、つい最近ウェブでサーチした事に関連したものだったりすることが増えているのは、多くの人が気付いていることだろう。このようなターゲットに対して適切な広告を出すには、いままでのテレビへの広告のようなやり方で、テレビ局と広告主が、この番組への広告はいくら、と事前に決めて広告するようなやり方はできない。

どんなときに、どんな広告を、どのような人をターゲットにして、リアルタイムに広告挿入するか。Dynamic Ad Insertionといわれるこの方法で広告を出すには、すべてシステムに事前にセットしておき、自動的に行う必要がある。業界用語でProgrammaticといわれるこの手法は、インターネット系の広告にどんどん広がっている。しかし、このようなことをするためのシステムは、一朝一夕にできるわけではない。実はAOLは、この分野に数年前から目をつけ、2013年にこのような広告を自動的に出すシステム・プラットフォームを持つAdap.tvを買収して、有力なプレーヤーになっていた。今回のVerizonによるAOL買収の大きな目的のひとつが、この広告システム・プラットフォームにあることは、Verizonも公言している。Verizonは、昨年Intelが持っていたテレビ番組のビデオ配信システムOnCueを買収したのに続き、今回のAOL買収で、インターネット経由の、そしてモバイルへのビデオ配信に本腰を入れてきている。

AOLは、オンライン・サービスでインターネット初期の時代の寵児となり、大型合併で名をはせた後、その大失敗により、その名前は多くの人の記憶から消えてしまっていた。しかし、どっこい、次の波を見据え、生き残っていたのだ。このまま頑張って、さらに市場価値を高めてから買収に応じるという方法もあったかもしれないが、現在のGoogleやFacebookの資金力や勢いを考えると、手を打ついいタイミングということだったのだろう。AOLのこの25年は、インターネットによって大きく変化する時代を象徴しているようだ。

  黒田 豊


(2015年7月)

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