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イノベーション成功のために

新年明けましておめでとうございます。

このコラムを書き始めてから、節目となる20回目の新年となる。昨年12月には、これまでこのコラムに書いてきたこと、それに、長年シリコンバレーにいて、日本企業に対して多くのビジネス・コンサルティング・プロジェクトを実施した経験から感じてきた、日本企業に対する思いを整理する意味で、「シリコンバレーのコンサルタントから学ぶ『成功するイノベーション』」(幻冬舎)を出版した。

そのもととなったのは、昨年初めにこのコラムで書いた、ビジネス・イノベーションについての記事だ。この本を書いて、改めてイノベーションについて考えると、その成功のために、大きく2つのことが、特に日本、そして日本企業には必要だと感じる。

ひとつは、ビジネス・イノベーションという考え方の必要性だ。イノベーションを単なる技術革新ととらえず、新規技術を使うにしても、既存技術を組み合わせて使うにしても、ユーザーのニーズやウォンツに訴え、ユーザーに新たな価値を生む、ビジネス・イノベーションが大切だ。

日本は、技術革新で世界に劣ることはないし、技術やビジネスで新しいことを考えるクリエイティビティでも、劣っているとは思えない。ただ、それをビジネスにする仕掛け作りは、必ずしも得意ではないように思う。技術革新で出てきたもの、新しいアイディアで出てきたものを、ビジネスとして成功するための仕掛けを十分考えず、そのまま市場に出してしまう、という動きが多いように感じる。特にグローバル市場においては、日本市場でうまくいったものを、そのままの機能をベースに海外でも出す、ということも見られ、それによる失敗も多い。また、市場環境から、タイミングが早すぎるものを、世の中に出してしまう失敗も見受けられる。

このあたりのビジネスの仕掛け作りに長けているのが、AppleやGoogleだ。Appleは、最初に世に出して成功したMacからして、その革新的な技術である、マウスとGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)は、自社で開発したものではない。SRI Internationalが技術開発し、Xeroxがビジネス向けに出して失敗したのを見て、狙いを一般消費者に変え、それに合わせた製品を作ったことで成功した。大成功したiPhoneの前身であるiPodにしても、iTunesを含めたエコシステムの構築、そして、それに音楽レーベル各社を参加させたことにより成功した。iPhoneも、全くゼロから作ったわけではなく、このiPodに携帯電話機能を組み合わせ、iTunesのApp Storeで、アプリをダウンロードできるようにしたエコシステムの勝利だ。

Googleは、技術イノベーションで独自のサーチ・ランキング方式を確立してユーザーの心をとらえた。そして、そこから収入を得る、サーチ結果の右側に出てくる3行広告というマネタイズ(収益化)システムを構築して、大きな成功を収めた。その成功を維持するため、新たな技術イノベーションに成功し、ユーザー数が膨大になっている今でも、瞬時にサーチ結果が出るよう、システムは進化している。Googleは、技術イノベーションとビジネス・イノベーションのいいサイクルを確立し、成功を長続きさせている。

AppleのMac成功のもととなった技術を構築したSRI Internationalは、以前私が勤めていた会社だが、私が入社した1988年ころは、優秀な技術者がたくさんいたにもかかわらず、会社としての業績はいまひとつで、苦しんでいた。そこに新しく登場したカールソン社長(昨年秋に退任)が、SRIで開発した技術をビジネスにする仕組みを確立した。そのやり方は、もっている技術をベースにしたベンチャー企業をいくつも設立することだ。この新たな仕組みを作った結果、スピンオフした会社は50を超え、その中には株式上場したり、Appleに高額買収されたSiriなども含まれる。この成功により、これらスピンオフ会社の株主であるSRIは大いに潤い、業績が安定するとともに、社員にも広く恩恵が行き渡ることとなった。

では、日本、そして日本企業で、なぜこのようなことが起こり難いのか。ひとつには、このビジネス・イノベーションを起こす仕組みに問題があるといえる。しかし、それよりも、もっと大きな問題がある。それは、日本、そして日本企業における、リスクを取ろうとしない、現状安定型、横並び主義の考え方(Mindset)であり、制度的、あるいは制度ではない、目に見えない制約から抜け出せない社員たちの存在だ。一言で言えば、日本の、特に大企業サラリーマンは、安定性を得るために自分を抑え、不完全燃焼しているように、シリコンバレーにいる私からは見えてしまう。

このようなことを言われても、ピンと来ない方も多いかもしれない。横並び主義を実践し、周りに合わせ、波風を立てないようにしていると、とても居心地のいいのが日本の社会だ。あえて違うことを唱えると、仲間から浮いてしまい、物事がうまくいかないと考え、制約の中での行動になってしまうのだと思う。そして、それが身にしみてしまうと、もはや自分で自分を抑えていることすら、気がつかなくなってしまっているのではないだろうか。

この結果、日本では、イノベーションが起こりにくい環境ができてしまっている。イノベーションとは、そもそも新しいやり方で、物事を革新しようというものだから、このような横並び、事なかれ主義の社会では、イノベーションが起こりにくいのは当然だ。戦後しばらく、自分たちでイノベーションを起こさなくても、米国など先進国のまねをして追いつけた時代は、それでもよかったかもしれない。しかし、今はそうではない。日本自らが、イノベーションを起こしていかないと、勝っていけない世界になってきていることを自覚する必要がある。

日本がなかなかイノベーションを起こせないのは、日本に技術革新力がないとか、日本人には新しいものを考えるクリエイティビティが足りないからだという人たちもいる。しかし、私は全くそのようなことはないと思う。問題は、そのようなことではなく、持っている技術革新力、クリエイティビティを生かした、新しいビジネスをどんどん展開することを、抑制してしまっている日本の社会、制度、そして個人個人のマインドセットにあると強く思う。

日本の社会制度、法制度などを変えていくには時間がかかるかもしれないが、一人ひとりがマインドセットを切り替え、横並び、事なかれ主義から勇気を持って飛び出せば、日本の将来は明るい。最近お付き合いしている若い人たちの中には、そのような新しいマインドセットを持つ人たちが増えているようで、うれしい限りだ。ぜひ、そのような人たちには、新しいマインドセットでがんばり、ベンチャー企業としてチャレンジしたり、大企業の中でも、その変革に取り組んでもらいたいと思う。そして、すでに長く大企業などで働き、古いマインドセットを持っている人たちにも、少しずつでもそれを変えるよう試み、若い新しいマインドセットをもった人たちを抑え込むのではなく、前向きに応援してもらいたいと願っている。

  黒田 豊


(2015年1月)

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